第二十四話 クローズ

いろんな方向へ走る走り方の中で、クローズに専念してみる。今日はクローズを真剣に走ってみる。ただひたすら真っ直ぐに、タックも忘れて、しかし、最適のセール形状はどうしたら良いかを考えて。いろんな場面を一変に全てうまく走ろうなんて思わずに、クローズだけ最高を目指すつもりで。

セールカーブを見て、ドラフトも位置を見て、船体のヒール具合を見て、舵は真っ直ぐか。ただ真っ直ぐ走るだけですから、いろいろ観察する事ができます。スピード計を見て、無ければGPSでも、携帯用でもスピードが出ます。それで確認しながら、自分の持っている知識を全て動員して、最高のクローズを走るつもりで、いろんな操作をする。もし、うまく行けば、これだけでも、最高の気分を味わう事ができます。何故なら、そのスピードを作り出したのは自分自身だからです。

もちろん、微風から強風まで風の段階はアナログ式にあります。ですから、たくさんのクローズがある事になります。アビームやランニングはこの際忘れて、クローズだけに絞って、他は兎も角、クローズだけは極めるつもりで、いろいろやってみる。するとスピード計に反応が出る。速ければ正解、遅くなれば不正解。風が変われば、トリミングの仕方も変わってきます。クローズだけとは言っても難しいもんです。

ざっと考えても、ハリヤードのテンション、シートの引き具合、リードブロックの位置、メインシートトラベラー、バックステー、舵、ヒール角度、観察すべきはたくさんあります。そこの本船の引き波がきてスピードが落ちる。トラベラーを落としてスピードをつけてまた角度をかせぐ。そしてまた最高スピードを目指す。こんな事はうまいから遊べるわけでは無く、しようと思うから遊べます。こんな事を何度も繰り返していると、クローズはとってもうまくなる。

シートはひたすら引き込めば良いというものではないですね。風が強くなれば、ハリヤードは伸びるしセールも伸びる。せっかく良い感じで走っていたのがヒールが大きくなって、真っ直ぐをキープするには舵をきらなければならない。すると舵は抵抗になってスピードダウン。もう一度ドラフトの位置を定め、よりセールをフラットにして再挑戦。それでも風がもっと強くなれば、角度をキープする為に風を逃がす。シートを出しただけでは角度が落ちる。あくまでここは角度稼ぎのセーリングに徹してみる。ジブシートのリードブロックを後ろに下げると、フットにはテンションはかかるが、リーチは緩む。緩むと開く。開くと風が逃げる。メインセールはシートを出して、その代わりブロックを風上側に引き上げる。するとリーチがが開くので風は逃げる。でもセールの下側で角度を稼ぐ。

これも無理な程風が強くなったら、リーフをする。とにかくクローズをキープして、いろんな状況で走る。これだけでも結構面白いんじゃないかと思います。終わったら、あとは、その日はのんびり帰っても良い。きっと、ああでもない、こうでもないという考えが頭に残るでしょう。また、今度。

最高に整うと、そして集中していると、きっとアドレナリンが放出されて、何とも言えない気分にまで押し上げてくれるでしょう。こんな走り方はレースではできません。スポーツだからできる事です。
ある程度慣れたら、タック後のクローズをまた走る。もっと慣れたら、タック、タックの繰り返しでジグザグに走る。スムースに。他の走り方はまた別の日にでもやりましょう。

いろんな事をして走ってますと、いろんな事が解ってきます。マストのステイはこれで良いのかとかも気になればしめたもの。もう虜になっていますね。良い傾向です。セーリングの面白さにどっぷりつかっています。同じようにいろんな角度、いろんな風や状況で使えます。

多くの人達が一旦クローズで走り始めてセールをセットすると、殆どがそのままです。たまにシートを引くぐらいです。後はする事無いので世間話になります。そこを何とか、セーリングに集中して、走ってみる事をお奨めします。毎回では無いにしろ、時々でもです。きっとセーリングが面白くなると思います。いろんな角度で走ってみますと、最も何とかしなければならないのがダウンウィンドという事になります。これを解決しなければなりません。スピン、ジェネカー、ファーリング、ソックス、ジブブーム、ウィスカーポール、何を使ってもかまいませんが、この走りを何とかしてください。そうすると、あらゆる角度でのセーリングが楽しめます。

そうなってくると、セールも気になってきますね。とっても良い傾向です。こういう走り方も是非セーリングの一部として採用してください。きっとおもしろくなるはずです。もっとのめり込みますと、ヨット自体も気になってきます。クルージングでありながら、性能の高いヨットがほしくなる。違う走りを体験したくなる。そうすると私の思うツボです。それでヨットが増える。今まで乗ってきたヨットは新しい方に行きます。ヨット人口も増える。セーリングが面白い人はヨットを大事にするでしょう。いつもきれいで、整備されていて、気持ちが良いです。だらしないヨットは見たくないですからね。

旅を楽しむ人が居て、セーリングを楽しむ人が居る。レースを楽しむ人も居るし、宴会を楽しむ人も居る。できるだけたくさんの人達が居た方が面白いし、楽しむ人はヨットはいつもきれいにされるでしょうから、マリーナ全体が輝いてきます。するとその活気に魅せられて、また人が寄ってくる。これはとても良い循環です。何はともあれ、クローズで最高のセーリングをしてみてください。

次へ      目次へ