第十八話 速い事

より効率の良いセーリングを目指せば、結果的に速く走れます。でも速さを目指せば、他人との比較になります。そうなるとキリがありません。クルージング派のセーリングは、結果的に速くなるけれども、速さを目指すわけじゃない。

何を目指すかと言えば、面白さを目指す。ちょっとシートを引いたり、出したり、バング調整したり、バックステー引いたりして、スピードが上がると面白くなります。スピードが上がっても下がっても、何でそうなったかを考えます。理屈が解ると面白くなります。決して他のヨットより速いわけじゃないにしても、理屈が少し解って、実際やってみて少し速くなったりすると面白くなります。そういう面白い事をたくさんしようという事です。

ヨットの本を読みますと技術的な事がたくさん書いてあります。でも、全部はできません。その中のひとつだけ実践してみる。それが解ると、体験として解ると、次の事をまたします。そしてどんどん進んで行きます。たくさんの技術を学ぶ事になります。そして解ってくると、ひとつひとつが独立していなくて、影響しあっている事がわかってくる。組み合わせができます。おまけに、走る海の状況はいつも異なる。そういう状況との組み合わせは無数にできる。つまり、それらを楽しむ事、それがクルージング派のセーリングだと思います。重要な事はうまいかどうかでは無く、面白いかどうかだと思います。セーリングを面白がってやってると、結果的には速くなる。誰かより速いとは限りませんが、自分の持ってるヨットの中で、少しづつ速くなる。

そのうち速いだけがヨットじゃないとも思うかもしれません。強風時の操船がうまくなったり、波に対する舵の取り方がうまくなったり、いろんな操作に自分流の工夫でうまくなったりしていきます。誰でも上手になると嬉しいもんです。但し、うまくなる為に苦しい事を我慢してやる必要も無い。自分のレベルで目の前にある程度が面白いのであって、遠くにある物を無理してやると苦しくなる。苦しい事を我慢してやる必要は無くて、目の前にある面白い事をする。レベルが上がると、昔苦しいと思った遠い事が、面白くなる。面白くなるまでやる必要は無いんじゃないかと思います。

将来のずっと先まで見通して、今全てを揃えるという事を考えますが、そんな事をする必要は無いと思います。今面白い事をする。その範囲で充分かと思います。将来、外洋を目指すからといって、今、外洋仕様を考える必要は無い。かえって、遠い事を今するのは苦しさになりかねません。
今楽しみたい事をするのが良いと思います。

何かを達成しなければならない事もありませんし、その点、遊びは気楽です。今日中にどこどこまで行かないといけない事も無い。レーサーは大変です。嫌でもゴールしなければなりません。目的地を持つクルージングも大変です。暗くなる前に着かなければならない。でも、目的の無いセーリングは気楽です。いつでもやめたい時にやめる事ができます。出たい時に出て、帰りたい時に帰る。これが自由だろうと思います。ただ、自由は何の目的を設定しても良いかわりに、曖昧になりやすい。自主性が重んじられます。ですから、誰にでもできますが、誰にでも楽しめる事ではないかもしれません。自主的に、楽しみを創造しなければならないからです。

そのお奨めのひとつが、学び、試し、体験していく。動きを楽しむ事です。こういう遊びは一瞬の快楽では無く、積み重なって深さを増して行く。他人から見て辛そうな事も、本人には面白く感じる。無理はしていない。自分のレベルの目の前の事をいつも遊ぶ。解ってくると、自分流の乗り方ができてくる。他人とは違うかもしれませんが、面白ければ良い。セーリングをあらゆる角度からアプローチして、面白いことをする。この壷にはまれば、セーリングそのものが面白くなる。どこかに行く事より、セーリングする事が面白くなる。面白くなったら、もっと学びたくなります。面白いからです。
是非、自分の面白さを創造して頂きたいと思います。

ヨットは乗る物では無く、操船する物です。動かす事が面白い。ゲストはコクピットに座って楽チンかもしれませんが、オーナーはいろんな事して大変そうですが、最も面白いのはオーナーです。
する事が面白いのです。ある70歳を越えたオーナーは、シングルでどうやったら面白くなるかを創造名人です。どうやってひとりでジェネカーを上げるか、どうやってジャイブするか、工夫してます。それを楽しんでます。自分の考えた工夫がうまくいくと面白い。失敗しても、どうせ遊びですから。
また、違う方法を考えます。この方、最高で一度に4枚のセールを上げて帆走している姿を見た事があります。

昔、ある人が知る事は喜びなりと言った人が居ます。ヨットは知るだけでは無く、試し、体験でき、感じる事ができる遊びです。全てはバーチャルの世界では無く、現実です。しかも、基本的な事から高度まで、自分にあったレベルで、面白く遊べる。こんな良い事はありません。無理も無い。少しの緊張感を味わいながら、少しづつレベル上げて、その時々の少しの緊張感を味わいながら続く

次へ      目次へ