第6話 既成概念を取り払う


全く個人的な感想です。商売柄、ヨットに関しては毎日、毎日、色んな事を考えます。最近最も思う事はシングルハンドユースにおける小型艇の事。どんなヨットが良いのか。そういう中で見つけたのがアレリオン28とノルディックフォーク25でした。どちらもクラシックで美しく、いろいろ検討してもシングルハンドには素晴らしい。ところが、きまってこういうヨットはキャビンが狭く、装備品もきわめてシンプル。そこで、実に多くの質問を造船所に投げかけるわけです。キャビンの天井の高さは? マリントイレ? その他の装備品は設置可能か?日本に販売するにあたって、殆ど全ての方が気にするような事。これらを事前に調べようと考え、そして日本で売れるのか?と考えるわけです。

しかし、これはノルディックフォーク25の造船所からの答えですが、私が持っていた固定観念を捨てなければならない。そういう思いでした。ノルディックフォーク25というのはデンマーク製で、当社が今年秋から販売を開始したヨットです。標準ではライフライン無し、航海灯無し、キャビン照明無し、コンパス無し、バッテリー無し、エンジン無し、キャビンのバウにはクッション無し(両サイドのセッティーバースのみクッションがある)、トイレ無し、等々、日本では必要と思われる物が一切無い。一方で、ウィンデック標準、アンカー&ロープ標準、フェンダー標準、係船ロープ標準、船底塗装も標準、セールアウェイ仕様という。

ヨットはセーリングを楽しむ事を第一に考えなければならない。セーリングそのものが気軽で楽しいものでなければならない。それには充分な設備を標準としている。それにこのヨットは高いスタビリティーを持ち、全てのコントロールはコクピットに集中させている。誰でも、気軽にセーリングの醍醐味を味わえる。これまで数多くの輸出をしてきたが、最初はどこの国も同じような質問をしてくるが、最初の数艇だけがいろいろな装備を要求して、そしてそのような仕様で実際輸出してきた。しかし、それも最初の数艇だけでした。後は皆、シンプルな装備で充分だという事が解ってくる。北欧では夫婦二人で、ワインを一本持って、気軽にピクニック気分でセーリングを楽しみに行く。動かない大型艇をよそに、イブニングセーリングを楽しむ。それが一種のステータスのようにもなっています。何故、何でもかんでも装備しないとセーリングに出かけられないのでしょう。そういう返事が返ってきました。

北欧の事情とは多少異なるかもしれませんが、これは既成概念を一旦捨てなければならないと思いました。日本は物質面ではとても豊かで、例えば車なんかでも何でも揃っている。それが当たり前の感覚があります。そしてヨットに対しても同じように何でも要求してしまう。それが無いと出かけられないかのように。それがどんどんエスカレートしているようです。大型艇の場合は最近の要求で多いのは、冷蔵庫などは当たり前、それにメインファーラー、電動ウィンチ、発電機にエアコンです。確かに、あれば便利な物ばかりです。これを否定するものでは無い。しかし、これらが無いとセーリングできないような風潮はいかがでしょうか。

最近では21フィートあたりのヨットは売れないですね。天井は低く、キャビンは狭い、個室トイレも無い、そんなヨットに興味は無い。と、こういう所でしょうか。でも、欧米ではこういうヨットもちゃんと売れている。殆どの方々の使い方であるデイセーリングでは、充分セーリングを楽しめるのではないでしょうか。視点をもっと別の所において考えても良いのではないでしょうか。

続く

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