第九十四話 シングルハンド

ヨットを冒険と捉えたら、遠くに行くのは好まないので、デイセーリングで冒険します。それにはシングルハンドは最高の乗り方ではないかと思います。レジャーならシングルでは乗りません。冒険だからこその乗り方です。これで最高のヨットマン、お手軽だけれど最高の冒険を手に入れる事ができます。

日本は古来より”和をもって尊しとなす”という言葉があるとおり、個人より集団における強調を良しとします。出る杭は打たれる。そういう言葉もあります。でも、これはスポーツというより、もっと社会性があるように思います。昔なら農業や戦はチームプレーでした。現代の会社に入っても同じです。個人の力より集団の力が重んじられます。しかしながら、古来から剣道、空手、柔道、相撲のような武道は一対一の勝負として完全な個人プレーです。日本人は個性を無くしたわけではありません。むしろ、集団と個の使い分けが明確だったかかもしれません。個は道を極めるところに重点を置かれた。スポーツ以上のものだったでしょう。決して、日本人が個人プレーを苦手をするわけでは無い。ただ、スタンドプレー的な事を好まないだけです。日本人が個を目指すと、そこは道になって極めるところまで行く。というのは、今時ちょっとオーバーですね。それはともかく、シングルでのセーリングはデイセーリングにおける究極の冒険をあらわします。

ですから、ヨットをレジャーでは無く、冒険として捉えたら、遠くに行く冒険では無く、近場の冒険を目指すなら、最後はシングルハンドを目指すのが良い。どのくらいの風までなら出れるか、その判断は自分でします。自分の腕とヨットに相談します。全部自己責任です。これ以上の冒険があるでしょうか。どこまで冒険性を高めるかは自分次第、でも、安心して下さい。デイセーリングで良いのです。マリーナを出て、2,3時間でも良いのです。無理なら帰ってくれば良いのです。遠くに行ってしまったらこうはいきません。でも、充分に冒険足りうる乗り方です。しかも、自分でコントロールできるのです。

この冒険を実行すると、いつでも、乗りたいと思った時に出る事ができます。マリーナに行って、たまにありますね、今出れたら良いなと思う時が、それがすぐに実行できる。一人ですから、世間話はできません。一人でしゃべっていても、誰も見てないので変には思われませんが、でも、誰でも無口にならざるを得ません。無口になった途端、神経がセーリングに自動的に集中します。丘で何があっても、自然にセーリングに集中できます。こういう事は丘に居てはできない事ですね。この集中は快楽ではありません。緊張です。でも、嫌な緊張ではありません。むしろ研ぎ澄まされた、心地良い緊張感です。こんな緊張感でセーリングしますと、体中が敏感になっている。場合によっては何も考えていない状態にもなります。こういう事無いですね、普段は。人間にとって、こういう機会は人を創造的にすると思います。おっと、あくまで遊びですから、こんな事はどうでも良いんですが。でも、そうだと思います。人をリフレッシュする。レジャーが人をリフレッシュするのでは無いと思いますね、人を蘇らせるのは、集中する事ではないかと思いますね。

それに、一人で何でもできるという事は、二人ならでかいヨットでも乗れます。ゲストが来てもへっちゃら、自由自在、縦横無尽、他にどんな言葉があるでしょうか、とにかく万能の乗り方です。最高の冒険、最高のセーリングが楽しめるという事です。ですから、全ての方々に、いつかはシングルハンドを目指していただきたいと思います。レジャーである限り、ひとりでは乗れない。でも冒険になった時、ひとりでも乗れます。最終的にはそうしたくなる。

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