第八十一話 スポーツマインド

結局、クルージング艇と言っても3種類あると思います。キャビン重視の滞在型、セーリング重視のスポーツ型、ロング重視の長期航海型、最も多いのが一番目の滞在型だが、これは日本においてはあまり活躍していないように見えます。三番目の長期航海型も誰もが必要とするわけでは無いので、一般クルージング用においてはスポーツ型が最も日本には合うのではないかと思っています。スポーツ型と言っても、レーサータイプでは無く、キャビンも充実していて充分だし、装備も充分だと思います。ただ、セーリングの使い勝手を考えられたヨット、デイセーリングのスポーツ的使い方から、沿岸クルージングでの艇内泊まで、充分にこなせる。

セーリング重視型とは言っても全部一様ではありません。これをさらにふたつに分けて、デイセーラータイプが入ってくる。デイセーラーはキャビンが小さいが、その分重心が非常に低いので、割り切って使えるなら、実に気軽な面白いセーリングを楽しむ事ができます。そこまで割り切れないなら、もう少しキャビンの大きいヨットのセーリング重視タイプというあたりが最も日本にはあっていると思います。

ヨットに滞在しない限り、セーリングを学んで、セーリングに夢中になって、遊んでみる事をお奨めします。海外の一般的ヨットが滞在型ヨットを建造し、彼らのライフスタイルはそれで良かった。でも、日本人には合わない事がわかってきました。何となく使ってきたものの、それで良いと思ってきたものの、これがヨットライフだと思ったが、今一、面白さに欠けていたのではないでしょうか。それでも、そんなものと思ってきたのではないでしょうか。

欧米では、そんな物では満足しない方々がデイセーラーを生み、スポーツヨットを生んでいる。欧米人だって、みんな滞在するわけじゃないし、みんなレースするわけじゃない。そういうジャンル、これが日本に合うと思います。セーリングを楽しみ、その合間にキャビンも楽しめる。滞在型程キャビンは広く無いかもしれないが、滞在じゃないんですから、それで十分ではないでしょうか。
へたすると、どこかに行ってもヨットでは無くて、ホテルに泊まる人も少なくないくらいです。それでも結構、それなら滞在型である必要はもっと無い。

スポーツヨットでハッスルしたくないという方もおられるでしょう。もちろん、ハッスルして乗らなければならないというものでも無いし、自分のレベルで乗れる。また、大きなジェノアをセルフタッキングにしても良いでしょう。でも、メインシートのトラックはコクピットにおきたいです。ラットもったまま操作ができるという事はオートパイロットがあれば、同じ事ができますが、操作した瞬間の舵の変化の感触を味わう事はできません。それにシングルなら尚の事。動かせれば何でも良いというのとは違うと思います。ヨットは自分で操作して、味わう為に乗るわけですから、その味わいを機械にやらせるなんてもったいない話です。

良い風吹いて、セールも決まって、そういう時、舵持って走ると気分は違いますよね。実に緊張が少し混じった、高揚した良い気分です。そこにブローが入って、それに合わせる。タックしてスムースに流れるように操作する。そういう一連の動作がオートマチックなら面白さも半減、自分でそれができるところに面白さがあると思います。それができるように、各部分の知識を学び、それらを組み合わせる頭脳ゲームをして、最後にはその流れるようなセーリングを感じる。キャビンで酒飲んでるのも悪くはありませんが、セーリングの方がもっと面白いと思うのですが。セーリングから帰ってきて、その余韻に浸りながら飲む酒はもっとおいしくなる思います。

スポーツマインドとは、素早く動いてハッスルするというのでは無く、ゆっくりであっても自分で操作して、その感触を味わう事、肉体のスポーツもありますが、心のスポーツ、感じる心だと思います。
その感じる心を大事にして、自分のレベルでスポーツする。それゃあ、うまい人にかかればもっと速いかもしれない。でも、スポーツマインドさえあれば、誰でも楽しめるスポーツです。プロ野球選手だけが楽しいわけじゃない。草野球だって面白い。それは自分でプレーしているからでしょう。
ヨットは観戦するスポーツじゃない。プレーする人が面白い。ならば、プレーしようじゃないですか。
学んで、知的ゲームして、感じてみようじゃないですか。たった1日、2,3時間でも良いんです。野球の1試合分ぐらいです。マリーナまで遠いという方も多いでしょう。でも、この短い時間が、充実していれば時間の問題じゃないかもしれない。例え短くても、ああ〜、今日は良いセーリングだった!と感じれば全てはOKじゃないでしょうか。

それで、結局、最も必要な事はこのスポーツマインドを持つかどうかにかかっていると思います。
持てば、学びたくなるし、学んだ事を試したいと思うし、そこからどんな風に走るか感じたいと思う。
そうしたら、より良いセーリングを目指して、もっと知りたいと思うし、その為にメインテナンスもしたくなる。メインテナンスをしていると、良いセーリングが達成しやすくなるので、また良い気分も増えてきます。それがまたスポーツマインドを刺激する。とっても良い循環です。

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