第六十二話 復元性

復元性曲線というのがありますが、ヨットはひっくり返らない。例えひっくりかえってもまた起き上がる。90度傾いてもまだ起き上がろうとする力が働き、120度くらいまで、その正の力が働く。とは言っても、実際、外洋にでも走らない限り、あまりそういう事が問題になる事は無いのではないでしょうか。それより、初期の復元性がどのくらいあるかは、実際セーリングしていて、最も感じる部分ではないかと思います。

初期のまた初期復元性においては、バラスト比というのはあまり関係ない。考えてみれば、初期のヒール時においてはキールが少し傾く程度ですから、その影響力は少ないという事は容易に想像できます。初期の初期においては、フォームスタビリティーと言って、幅が広い方が抵抗が大きい。
カタマランなんか典型的ですね。ヒールしません。バラストでは無く、幅が広いからです。

それがもう少し傾いてきますと、今度はバラストが横に張り出してきますから、今度はバラストが関係してくる。クラシックデザインのヨットは幅が狭いので、初期の初期においてはヒールしやすいですが、その後、バラストが重いので、ぐっと持ちこたえてくる。ヨットが持ちこたえてくれると、その分セールを展開できますので、リーフしなくても良いとか、風を充分に捕まえたまま走れるので、その分速く走る事ができる。

まあ、極端な言い方かもしれませんが、復元性消失角度が120度とか130度とか言っても、殆ど関係無いわけです。外洋に出て大時化に合うとか言わない限り、あまり関係が無い。それより、初期の復元性の方がおおいに関係してくると思います。カタマランなど、ひっくり返ったら起き上がらない。でも、初期の復元性は抜群ですから、殆どヒールしない。モノハルですから、どんなヨットでもヒールしますが、まあ、これが面白いとも言えますが。ただ、セールエリアとの関係もあります。同じ復元性を持っても、より大きなセールエリアですと、ヒールモーメントも大きくなる。バランスですね。
逆に、復元性が小さくとも、セールエリアがもっと小さいとヒールモーメントも小さくなる。しかし、遅いという事になる。

それでいろんな計算式で、そのヨットの性格を知ろうという事になります。重量、水線長、バラスト比
セールエリア、云々。そして、そのうえで、コントロールが関係してくる。風が弱いとセールを流れるセールの風上と風下の圧力差が小さいので揚力も小さい。従って、セールをもっとカーブさせて、流れを変えて、圧力差を少しで大きくする。逆に、風が強いと圧力差がおおきくなるので、セールはできるだけフラットにして、差を縮める。揚力は推進力ともなるが横流れの原因にもなり、大きな横流れを食い止めようとヨットは必死になって、大きなヒールとなる。できるだけフラットにしても大きなヒールになるなら、セールをひねって、リーチ側を開いて上部から風を逃がす。ツウィストを大きくする。ジェノアなら、トラックのリードブロックを後部に下げる。メインならシートを出して、トラックのブロックを引き上げる。他にも、いろいろあるでしょう。言葉にすれば簡単ですが、体感すると面白いし、そうやって走ってれば、復元性が良く解る。果たして、計算式の数値どおりなのか?

バラスト比というのは、最近のヨットのデータに記載していないのが多い事に気づく。昔はみんな記載してありました。23%程度しか無いなんてのもある。それだけじゃない。船体自体は昔のデザインに比べればはるかにでかい。その分船体の重心は高い。なのに、バラスト比は減少している。
つまり、あまりセーリングの事は重視していないとしか思えない。もちろんセーリングはできる。でも、求めてるのはドライブ感、グッドフィーリングですから、セーリングヨットとは思えない。あれはキャビンヨットじゃないかと思いますね。それが悪いとは言いません。キャビンライフを楽しむヨットですから、キャビンライフを楽しめば良いわけです。セーリングヨットはセーリングを楽しめば良い。

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