第七十七話 セーリングの探求

人数がたくさん集まると世間話のセーリングになりやすい。断っておきますが、良い悪いの
話ではありません。基本的には自由、何でも良いと思います。好きにするのが良いと思い
ます。ただ、私のお奨めはこうです、というだけです。話を戻します。人が集まると各人共通
の話題は少なくなりますので、通り一遍の話になる。どこかの居酒屋で酒でも飲みながら
するなら結構、でも、ヨットをいう趣味を持ち、それに夢中になる方にとってはあまり意味が
無いように思えます。ですから人数は少ない方が良い。少ないと話題が高尚になるかと言
えば別に高尚な話が良いわけでもないですが、できれば全員がセーリングの探求という課
題の同じ方向へ向いていれば良いですが、なかなか難しい。それで、シングルならベストです。
セーリングの探求という意味においてはベストだと思います。探求をしない時もあります。
探求をする時もある。それで探求する時はシングルがベストだと思います。

何故かと言いますと、シングルなら話す相手が居ません。話相手が居ないと黙ってしまう。黙っ
てしまうと感性が表に出てくる。それが目的です。話をするには頭が動きますから、頭が動くと
感性は表面にはあまり出ない。出ないと感ずるものが少なくなって、せっかくのセーリングを
阻害してしまう。別にセーリングのプロになるような技術を習得しようという話では無く、うまく
なるのは楽しい事ですが、それはあくまで手段に過ぎません。目的は素晴らしい感覚を味わう
事です。もちろん、その為にはセーリング技術を少しづつ習得しつつ、その楽しいプロセスを味
わいながら、その楽しさがあるから続けられるのですが、そこに集中しつつ、頭脳が静かになる
と感性がより敏感になって、セーリングという実に捉えどころの無い動きが感覚で感じられるよ
うになります。そこが最高の気分をもたらしてくれます。それが感じられないのは、技術が無い
からでは無く、頭脳が活発に動いているからです。頭脳を黙らせるには黙る事が一番。ヨットは
幸い、一人で乗っていますと、頭脳が自然に黙り、陸上で描いていたいろんな考えが吹っ飛んで
しまいます。自然に、目の前の現象に集中できます。

頭で考える世界と感じる世界、この二つがあって、ヨットを楽しむのは感じる世界に居なければ
ならない。それには考える世界を黙らせる必要があります。セーリングの探求と書きましたが、
テクニックをどうこうという話では無く、セーリングを探求しようという気持ちが、この感じる世界
に自然に入る事ができるという話です。それで、そうなると何が良いのか?特別な何かが起こる
わけではありません。今まで見てきた物と同じです。しかしながら、同じはずなのに、豊かに感じ
ると別の意味を持ってきます。ヨットの動き、滑らかさ、そういう物がありありと感じられる。今迄
は良い走りをしているなと頭で考えて、理解してきたものが、そのまま考えずに感じられる。言葉
では説明できませんが、とっても良い気分です。良いというより、何も考えていない。良い気分と
も考えていません。ただ、感じているだけです。それが何とも心地良いのです。ただ、一人でセー
リングを探求しようとすると、誰でも感じられる。それをお奨めしたいと思います。そして、時には
しびれるようなセーリングを味わう事ができます。夢中になれます。

人は四六時中何かを考えていますが、時には頭をからっぽにした方が良い。それにはセーリング
の探求を通して、感じる事に集中するのが一番です。ヨットはそれがやり易い。一人でセーリング
するなら簡単にできる。ですから、シングルハンドをお奨めします。クルーが居ないからではあり
ません。マリーナで頻繁にセーリングしているヨットにはシングルハンドが多い。彼らも、同じよう
に感じておられるのだと思います。ただ楽しいという快楽ではありません。それ以上の何かがあり
ます。ただ、黙ってセーリングするだけで感性は磨かれる。それ以上のものは無いと思います。

たかがヨットにたいそうな話と思えるかもしれませんが、人間、何かに夢中になって集中している
時が最も充実感を得られます。ヨットは一人で出れば誰でもそれができる。セーリングを探求すれ
ば誰にでもできます。ついでに腕も上がってきますから、いっそう面白くなります。

どんなに腕があっても、おしゃべりに夢中では何も感じない。腕の差では無く、気持ちの問題です。
黙ると舵を持つ手に敏感になり、ヨットの動きに自然に神経が向きます。それが感じる世界の入り
口です。初めてそれを感じたのはダブルハンドの時でした。いつも音楽をかけて、おしゃべりしなが
らセーリングしていましたが、ある時、二人とも黙ってしまい、セーリングに集中していました。心地
良いスポーツ的セーリングを楽しむようになり、それだけでも楽しかったのですが、ある時、良い風
が吹いて全てが整ったような気がしました。その時の気分は最高です。言葉では言いあらわせない
これがヨットの醍醐味だなと、後で思った次第です。

それ以来、スポーツセーリングをお奨めするようになりました。レースでは無くともセーリングを探求
する事を手段として、セーリングする事によって、実に充実したヨットらライフになる。その為には、
気軽に、できるだけ頻繁に出れるようにする事と、それをもっと可能にする為にシングルハンドが
良いという結論になるわけです。

それでシングルハンド仕様のヨットを取り扱うようになりました。何もそれでなければならないわけ
ではありませんが、より扱いやすい。そして性能が良いのが良いし、美しいのが良い。もちろん、
普通のヨットでも構わない。わいわいやるヨットも楽しい、でも、そういう感じる世界も時には味わって
頂きたいです。それにはクルー全員でセーリングの探求をしてください。その時はショートハンドで。

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