第七十三話 ゲーム

ゲームには勝ち負けのゲームがポピュラーです。大きな緊張感を伴い、勝った喜びも
大きなものになります。レース以外のヨットゲームはプロセスのゲームです。勝者も
居なければ敗者も居ない。そんなゲームを面白くするのは簡単じゃない。自分で演出
しなければ退屈になってしまう。

船旅は景色を楽しみ、食事を楽しむ。でも、余程深い感性が無いとすぐに退屈になっ
てくる。後は、早く到着しないかと思うばかり、或いは、到着後の楽しみを想像する。
漫然と世間話をしながらのセーリングも、余程世間話が好きでないと続かない。この
ゲームは意外とタフなのではないか。人任せ、ヨット任せではこのゲームを楽しむ事
はできない。主体性のある人、自分から進んで楽しもうとする人、そういう人でないと
なかなかこのゲームを心から遊ぶ事はできない。だから、レースというゲームが最も
解りやすい、楽しめるゲームという事になる。でも、常に勝者にはなれないし、まして
常に勝者になったら、これまたつまらない。自分勝手なもんです。

人間はとかく我侭なもんです。簡単にできれば面白くないし、困難があれば、これまた
困る。勝つと最初から解っているゲームはもちろんつまらない。そんなゲームであって
も、誰でもできるゲーム、それは主体性を持ったプロセスのゲーム、勝者も敗者も居な
いゲーム、その瞬間瞬間を感じるゲーム、これが最も面白い。

面白いというのは感覚です。頭脳ではない。ヨットでセーリングしていると極めて感覚的
になる。頭脳が少し休みを取って、感覚が鋭くなる。そういう気がします。世間話ばかり
しているとそうはならないですが、セーリングに集中していると感覚的になる。もちろん
頭脳も使います。でも、頭脳はいかに効率良いセーリングをするかという事に集中し、
思い悩むという類の事には使われない。

セーリングは頭脳と感覚のゲームです。頭脳はセールのトリミングであるとか、シートの
出し方、舵の切り方、そういうものに費やされ、後は感覚が研ぎ澄まされる。そこには
時間も無く、その瞬間を感覚で味わっている。こういう時に、ふっとグッドフィーリングが
やってくる。極めて健康的ではないでしょうか。セーリングしながら悩む奴なんか居ませ
ん。頭脳は極めて健康的な回転をする。何の成果も結果も期待せずに、その瞬間だけ
を味わっているのですから、これ以上の健康的な事は無い。

日常生活では、過去を思い、未来を思い、結果を気にして生きています。何も期待せず
に居る事はあまり無い。ところが、結果も成果も過去も未来も何も考えずに、その瞬間
を感じる時、それが最も面白い。簡単に言えば、夢中であります。子供の頃は誰でも
そうだった。でも、成長するに従って、過去と未来が広がり、期待ばかりするようになる。
それは同時に不安もある。

セーリングは過去も未来も無い、その瞬間だけが楽しめる最高のゲームです。そう思って
セーリングしてみませんか。セーリングに集中してみませんか。すると何か違うスッキリ
した感覚があると思います。セーリングしている感覚は非日常的ですから、感覚を遊ぶ
ゲームといえると思います。それが良いか悪いか、それは自分で確かめてください。

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