第六十八話 予算と品質

どんなに品質が高いと叫んでもも、予算に入らない物は何の意味もありません。例え、
このヨットがどんなに素晴らしくても、予算に入る人しか関係は無いという事はそれは
無意味でもある。逆に、どんなに安くても、安かろう悪かろうでは、これも問題です。私
はヨットは置いといて、眺める対象にはしていませんので、ヨットはセーリングする物と
して捉えていますので、セーリングすればヨットは波や風にストレスを受ける。そうすれ
ば、それなりの造りは必要だし、しかも10年やそこらでは無く、何十年でも乗れるとう
耐久性や、トラブルの減少等々も考えると、サイズも重要かもしれませんが、品質も
ポイント的にはおさえておく必要があると考えています。それが、これまで申し上げまし
た構造と工法だと思います。

設置されている部品、素材、そういう物は従来の素材でも、最高とは言いませんが、十
分だと思います。構造と工法をきちんとなされていれば、充分に使えると思います。
そういう観点でヨットを見ますし、取り扱いをします。

イタリアのコマー社はそういう企業で、ヨットをセーリングを楽しむものと位置づけ、構造
工法を職人の手に委ねています。そして、個人オーナー向けに建造するという考え方で
す。この事によって、価格は大量生産艇よりも少し高いですが、ポイントを抑えている。
その上、素材面においても、樹脂をビニルエステルにしたり、サンドイッチ構造はバキュ
ームバッグにしたり、全てのステンレスは316にしたりしています。この素材部分は絶対
こうでなければならないという物ではありません。より良いという部分です。全てにより良い
という部分を強調して行きますと高価になりますから、そうはならないように、でもポイント
は押さえる。そういう考え方で建造しています。この考え方には非常に賛同し、日本での
代理店になりました。

アメリカのセーバー社が造るヨットは、さらに品質を凌いでいます。M36やフレンドシップ40
はさらにまた上を行く品質です。これは丁度安い車と高級車の違いです。ここまで望む方は
こういうヨットもあります。でも、そこまで無くても充分乗れる。ただ、ヨットの場合、セーリング
するという観点において、押さえるべき構造と工法は、少なくとも押さえておいた方が良いと
考えています。そのうえで、セールプランがどうこうとか、見かけのデザインがどうこうとか、
装備がどうというのは、使い方の問題ですから、好みの問題でしょう。それで良いと思います。

価格には理由があります。コストがある。そのコストをどこに分配しているかによって、ヨットは
違ってくる。その分配は造船所のコンセプトにかかっています。ヨットがセーリングする物とし
て使われる限り、どんなデザインであろうが、ある一定の水準で船体の強固さを持つ方が良い
と思っています。それは頑丈過ぎる程は必要ないかもしれませんが、用途によっても違うかも
しれませんが、少なくとも、構造と工法に最低基準を考えます。この事は、そうでは無いヨット
に比べて少し高いかもしれません。しかし、実際に運用していきますと、その価値は充分にある
と思います。安全性、これは乗って感じるものです。それにトラブルも減少します。寿命も長く
なるし、古くなっても船体さえしっかりしていれば、たとえ買い換えるにしても、再販価格にも
はねかえる。そして、手放しても、誰かが再生する事もできる。船体さえしっかりしていれば、
設置部品の交換で、ヨットは長く存在できる。

30年ぐらい前のヨットを再生しましたが、船体は頑丈、何の問題も無く、傷を補修し、塗装し、
非常にきれいになりました。良い造りしてます。乗り心地も違う。やはり、良いヨットは良い。

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