第六十五話 機能的デザイン

前話で言いましたが、気に入るという事が全てで、その他は不要と書きました。
でも、それでは話が終わってしまうので、能書きを続けます。

ここではデザイン、機能的なデザインについて書きます。機能は何の為かと考え
ますと、どんなフィーリングを得たいかによると思います。これは人にによって異
なります。例えば、スリルを味わいたい人、安心感、優雅、爽快、ちょっとした冒険
心、達成感、のんびりした気分、いろいろありますが、それを味わうにはどんな機能
が良いかという事になります。

ロングキールで、低いフリーボードで、頑丈な船体、重排水量となりますと、安心感、
重厚さ、安定感などが味わえる。でも、一方でスピード感やスリル感などは味わえな
いとは言いませんが、それなりの状況にならないと味わえない。一方、軽排水量、
フラットなボトム、大きなセールエリア、高いフリーボードなどでは、スリルも味わえる
が安定感とはほど遠くなる。

お奨めしたいのは、もちろん自分の好みで良いのですが、ちょっとした冒険を持ちな
がら、安心感と安定感が感じられるもの。抽象的ですが、安定しながら、スポーツで
きるヨット、少しだけスリルを味わえるヨットです。つまり、緊張と緩和を味わえる。
それにはスポーツ性を少し感じさせるヨットなどは個人的な好みですが、お奨めでも
あります。

安定しすぎるヨットは、それこそ外洋に出るか、時化の中で走る時にしか感じられな
い。あまりにも重心が高く軽排水量艇なら緊張ばかりで疲れてしまう。それで、安定
感のある、でもスポーツ性のあるヨットなどは面白いと思います。何でもそうですが、
安定しすぎると退屈ですし、緊張ばかりでは疲れてしまう。その程よいブレンドで、
緊張より少し安定がうわまるぐらいがいいかなと思います。緊張3に対して、安定7
或いは4:6ぐらいですかね。

それで、安定の要素として、構造と工法、船型、重心の低さ、一方緊張としては
帆走性能の高さ、スポーツ性、バンバン走って、でも安心感がある。そういうヨットが
いいなと思います。それで、最後は艤装の仕方です。艤装の配置デザインといって
も良いと思います。これはシングルとかクルーの問題になってくる。ある程度変更も
できます。

ちょっと話がそれますが、つい昨日、ジャズのコンサートに行ってきました。音楽が
好きな方は多いと思いますし、定年を迎えるにあたって、楽器を始められる方々も
多いと聞きます。そのうち何人かはヨットを始められる方も最近では少なくありません
この事は関係無いのですが、音楽にも安定と緊張とがちりばめられています。ドラム
はきっちりとリズムを刻み、ベースが低い音で、その音楽の安定性を保つ。その上に
メロディーが乗ります。メロディーは安定から緊張へ、そして安定へと飛び回る。つまり
根底に安定があって、その上に緊張感をちりばめる。それが聴衆を感動させる。安定
だけなら、面白く無い。緊張ばかりなら疲れてしまう。その微妙な動きが演奏の好き嫌
いを生じさせる。これは、音楽に限らず、何も同じではないかと思います。いかにこの
緊張と安定を演出できるかによって、面白さが演出できるのではないかと思います。
その緊張の度合いも人それぞれですから、自分で演出するのが最も良い方法なのです

それでヨットの事を考えますと、安心感の持てる船体、これがベースでしょう。それも度合
いがありますから、自分の海域で安心できる船体、強度をベースにして、その上で、帆走
する時、それがメロディーであり、安定の上に緊張と緩和を演出しながらセーリングする。
エンジンばかりでは退屈になるのは当然だと思います。セーリングこそが、緊張と緩和を
演出できる手段ではないかと思います。緊張が過ぎてもいけませんし、安定ばかりでも
いけません。それで、時には、1回のセーリングの中に緊張と緩和を織り交ぜる必要が
あります。或いは、今回は安定、次回は緊張を増やす。そういう演出です。緊張というのは
あぶない事をするのでは無く、本気で走ってみる、自分のレベルで、セーリングに専心する
という事だと思います。ちょっと話がタイトルから外れてきましたね。いつもの事です。

そうやって見ていきますと、ヨットはスポーツした方が良い。それはセーリングに専心する
事です。どこまでスポーツするかは、自分次第です。それで、ヨットのデザインもおのずと
決まってくる。そういう目で見ると、そういう気持ちで見ると、自分が気に入ったヨット、何も
考えずに、データを吟味する事無く、気に入ったヨット、それが実は自分に合ったヨットと
なってくると思います。本当は気に入ったヨットが先に来て、その決定を自分が自分で納得
させる為にデータを見るのかもしれません。そういう時、自分に都合の良いデータだけしか
頭に入らなくなる。それで良いと思います。選択の仕方の最高な方法ではないでしょうか。

もちろん、何年か経った時、別のヨットがほしくなるかもしれません。でも、それは自分が変
わったからですから、何年か後、自分がどう変わるかは解りません。でも、変わる前までは
最高に楽しんだはずです。今度ほしくなったヨットを、前に購入していても、その時は楽しめ
なかったかもしれないのです。ですから、いつでも気に入ったヨットが最高なのではないか
と思うのです。案外、その最初のヨットをもっと活用できるかもしれません。自分が変わった
としても、そのヨットをどうにでもアレンジしていけるかもしれません。その為にも、ベースは
押さえておくのが良いと思います。

もし、ヨットに安定感だけを求めるなら、それは間違っていると思います。何故なら、ヨットを
持つという事だけで緊張感が出てきます。繋いだもやいロープは切れないか、水漏れして
いないか、スタンチューブは大丈夫か、エンジンは随分回して無いが、大丈夫か、台風が
近付いてくると心配です。人生が緊張の連続で、安定感を求めるなら、ヨットなんかより、
温泉でもつかってのんびりした方が良い。ヨットは楽しむものです。楽しみは緊張と緩和の
繰り返しの中にある。ですから、それを演出できる人が楽しめる。そして、繰り返しますが
セーリングこそが演出には最高の手段ではないかと思います。

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