第六十二話 構造

確かに、ハルにケブラーを使ってますとか言う振れ込みもありますが、一部にこういう
素材を使ったからと言って、どれだけ寄与しているか解りません。良い素材は確かに
優れています。しかしながら、基本となる構造と工法のうえで寄与するものであって、
それが無いのにはあまり意味は無いと思います。

まずは構造と工法について考えます。出来上がってしまえば、何ら変わる事の無い
船体もどういう構造をしているかによって、強度は違ってきます。いろいろ言いますと
際限が無いので、ハルラミネート後、船底内部に設置するストリンガーとバルクヘッド
について話をします。

最近のヨットでは船底のストリンガーをFRPのモールドで造るケースが多くなりました。
工法的に作りやすい、人の手間を大幅に削減できます。このストリンガーは船体補強
であるばかりか、キャビン床の水平が同時に作れる。そういうメリットがあります。
ちなみに、セーバー社はこのストリンガーをハルラミネート後、1本づつ作成して、船底
にラミネートしています。もちろん、この方が強度はあるが手間がかかるので高くなりま
す。それで、そこまでは無いにしても、ストリンガーをモールドでおこしてFRP製作した
としても、今度はどうやって船底に設置するかが問題です。あるヨットはパテを使って
います。これは非常に簡単に手間をかけない方法です。でも、何年かするとこれがはが
れているのがある。つまり、これはどういう事になるかと言いますと、本来補強であるは
ずのストリンガーが船体から離れ、補強の意味をなさなくなり、結果、船体は船体の強度
だけでもっているという事になります。同じこのストリンガーを今度はグラスで積層して
船底に接着する。この方法の方がはるかに接着力は強いという事は言うまでもありませ
ん。波で船体に力が加わり、ねじれようとする力に対して、弱ければこの接着がはがれて
しまう。これは材質とは何ら関係がありません。工法の問題です。もちろん、この積層は
ハルが乾ききらないうちに、ストリンガーを積層します。船底が完全に乾いて硬くなった時
にやりますと、二次接着と言われ、強度が一体とならずにおちてしまう。つまり造船時に
やる方が強度が上がる。ちなみに、はがれたストリンガーを補修する時は二次接着にな
りますので、できるだけ広範囲に積層していきます。

ちなみに、ある造船所ですが、船体内部にシートを貼り付けて、完全に乾燥しないように
して作業を進めていました。次に積層する直前にこれを剥がして、積層する。まあ、これは
出来上がってからでは解りませんが。つまり、ストリンガーはFRPでも良いですが、船底
にきちんとグラスで積層接着してもらいたいと思います。

次にバルクヘッドです。これは部屋を仕切る為だけにあるのでは無く、船体の強度になり
ます。ですから非常に重要です。ハルとデッキをモールドで型抜きして造るというのは一般
的ですが、内装の床、椅子、天井まで同じ工法で造るケースが多くなってきました。もちろ
ん経済的だからです。内装は一発でできるというだけではありません。バルクヘッドが入る
溝をあらかじめ造っていますから、そこにポンを入れる。非常に合理的であります。この
バルクヘッドもパテで接着というのがあります。以前、あるヨットがこういう接着でした。
そしてパテが割れていました。正直言いますと、バルクヘッドの上部がずれていた。もち
ろん今すぐどうかなる事では無いかもしれませんが、先々どうなるのかとちょっと心配でし
た。やはり、これも船底とデッキにきちんとグラスで積層接着する方が強度はある事は言う
までもありません。

最近ではFRP単版ですと強度を保つには重くなりすぎるという事もあり、バルサやその他
PBCサンドイッチ構造にするケースも少なくありません。これらの素材をサンドイッチにして
厚みをつけるのは船体ねじれの補強に効果があります。しかしながら、新しい構造は問題
もはらみますので、この場合、剥離の問題があります。従来のハンドラミネートではなく、今
ではバキュームバッグという工法があります。全体にシートでカバーして、内部のエアーを
抜き、真空状態を造る事によって、気圧が船体を押しますから、それで樹脂が隅々にまで
浸透し、余分な樹脂を出せる穴を開けて、そこから余分な樹脂が出てくる。樹脂は多くても
少なくてもいけません。

それとついでながら、素材ですが、樹脂も良い素材があります。一般的に使われるポリエス
テルより、ビニルエステル、エポキシの方が良い。しかし、その前にこういう工法の方が重
要ではないかと思います。そのうえで、ビニルエステル樹脂を使えばもっと良い、エポキシ
を使えばもっと良い。そういう事になりますが、高価になります。

ハルとデッキの接合についても少し書きます。最近ではちょっと違う形状した物がでてきて
います。以前はハルの上部側がL型に曲がって、その上にデッキをかぶせて、L型の曲がっ
た部分とデッキを接着剤とボルトナットで接合していたのが一般的でした。でも、これ考えて
みますと、外側からボルトを締める人間と、船内側からナットを持っている人間が必要に
なります。それで、最近見かけたのが、タッピングを使ったやり方です。これがどの程度持つ
のかは知りませんが、どうかなという気はします。また、ハルは真っ直ぐ立ち上がり、デッキ
がL型で上側に曲がっている。その立ち上がった部分で横側にボルトナットを締める。こういう
やり方も最近見られます。これなら一人でもボルトナットを締められる。でも、船体が下から
波の衝撃を受ける、突き上げられるとするなら、横向きのボルトナットでずれがでてこないか
という余計かもしれませんが心配をしてしまいます。

より良い構造、より強い工法を目指して、新たな方法をとる事は必要ですが、あまり経済的
観点ばかりから考えますと、ちょっとこれはどうなるんだろうか、と思ってしまいます。安いという
事は重要です。安く提供できるのは、ヨット普及において素晴らしい事だとは思いますが、それ
に対して、どういう造りになっているか、そこのところを見て頂きたいと思います。そして解った上
で納得する事が必要かと思います。何も、高級である必要性は無いと思いますが、上記二つ
は押さえていたほうが良いのでは、と思うのですが。

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