第四十四話 ちょっと無理をする

何事も無理はしてはならないと言います。でも、言い方を変えれば、このちょっとの
無理は、これまでを超えるという事にもなると思います。物は言い様、考え様です。
いつも安全圏内に居るより、ほんの少し無理をして超えてしまう事も必要じゃないか
そうすると新しい何かが見えてくるかもしれません。

時化たら乗らない安全確保も良いでしょう。でも、ちょっと出してみて、この時化がど
の程度なのかを知る事も勉強になる。その勇気も必要でしょう。反面、その一歩を
踏み止まるという勇気も必要なんですね。ここのさじ加減が難しいところですが、無茶
ではありません。無理と無茶は違います。無茶はしないが、ちょっと無理はしてみる。
いつも安全圏内に居ると、飽きてくる場合が多い。少し、緊張感を持つぐらいが、丁度
良い。緊張と緩和こそが、面白さの原動力ではないかと思います。全く緊張の無い物
は安心ですが、退屈になります。

ですから、デイセーリングの演出は緊張感をいかに演出するかになってくると思います。
もちろん、緊張感ばかりではもちません。この緊張感をいかに緩和と混ぜていくかによる
と思います。穏やかな海をのんびりクルージングばかりしていると、飽きてくる。島に渡って
酒ばっかりに飲んでると飽きてくる。キャビンライフばかりでは飽きてくる。セーリング中の
世間話ばかりでは飽きてくる。毎回乗るゲストが違うだけで緊張感が出てくる。緊張感は
この程度にも出てくる。ですから、毎回ゲストが異なるなら飽きる事は無いでしょう。でも、
そんな事は無いわけです。逆に、緊張感ばかりなら、それが大きな緊張感であればある程
疲れてくる。これもいけません。緩和の中に時折緊張感をうまくブレンドしていく演出が必要
です。

テレビで熟年離婚の話をしていましたが、これも緊張が多すぎるか、或いは緩和ばかりか
のどちらかに偏っているせいではないのかな〜と思います。

さて、それで、ヨットに緊張感をブレンドするのが、セーリングに他ならない。いつも同じ結論
ばかりで申し訳ありませんが、本当にそう思っています。セーリングを本気ですると、いつも
緊張と緩和が入れ替わりでやってくる。本気でするという所がミソです。その緊張と緩和は
秒単位かもしれないし、分単位もあれば、1日単位、という事もあります。ある日は緊張の
しっぱなしという日もあれば、風も無く、のんびりの1日という事もある。ミクロで見て、マクロ
で見て、どちらにも緊張と緩和があります。本気でというのは、大きな緊張は誰でも感じられ
ますが、小さな緊張はぼ〜っとしていたのでは感じられない。シートをちょっと引いて、ちょっと
スピードが上がった。それを操作し、スピードを知った人には緊張感が少し出る。その程度で
も緊張感なのだと思います。気が張ってるから、いろんな事に緊張感を感じられる。だから、
緊張が解けた時の気分も感じられる。気が上に行ったり、下に行ったり、それが面白いという
事になってくる。ショートセーリングの2,3時間、緊張感を楽しむには良い時間です。

のんびりクルージングにはあまり緊張感は無い。ですから、気分は良いが、次に乗るのは、
ずっと先で良い。たまにで良い。だから、別荘なんかもあまり使われない。のんびりしかない。
緩和しかないからです。お客様で別荘のオーナーがおられる。ある方は殆ど使っていない。
でも別の方は結構行かれる。何故かと見ていますと、別荘の周りにいろんな野菜作ったり、
木々の手入れしたり、花を作ったりされています。それらがある種の緊張感を与えていると
思います。草が生えていないか、花が枯れていないか、そういう事が緊張感を与え、収穫は
緩和を与えてくれます。日常が緊張の連続なら、別荘でもヨットでも、緩和だけで良いかもし
れません。でも、それでも、たまにしか利用できない。たまにしか利用したくなくなると思います。
いくら温泉が好きでも、毎週はいかないでしょう。数ヶ月に1回で充分なのでは?

セーリングには小さな緊張を演出する。大きな緊張は自然がそのうち与えてくれます。でも、そ
れも2,3時間の事です。小さな緊張は舵を操作し、セールをトリミングし、タックし、ジャイブし
操作する事、それによる反応を感じる事で演出できます。

シングルハンドはその緊張感をもっと増幅させます。究極の面白さがあると思いますね。

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