第五十話 造船所

造船所とは言っても、ヨット全部を造っているわけでは無い。マストはマストメーカー
ブロック、セール、ロープ、ステアリング、内部機器、そういう物はそれぞれのメーカ
ーからの寄せ集めに過ぎない。残った物は船体と内装木工。造船所はデザイナー
に自己のコンセプトに合うデザイナーに図面を引かせ、それを自分達のクオリティー
レベルで建造する。同じデザイナーであっても、造船所によって品質は異なる。

そこで造船所の違いは、コンセプトの違いと、船体構造、機器類の取り付け方、
工法の違いとなる。同じサイズのヨットを建造しても、そのやり方で雲泥の差が出て
くる。同じデザイン、同じ材料を使ったとしても、例えば、接着だけで済ませるかグラス
をラミネートするか、タッピングビスを使うかボルトナットを使うか、また何本使うかなど
によって船体の強度は全く異なる。この全く異なるのは手間のかけ方次第という事に
なる。ここも造船所のコンセプトのひとつとなる。こういう部分はデザイナーでは無く、
造船所任せです。

造船所に実際足を運んでみると、実に様々、温度、湿度の管理からきちんとされてい
る造船所もあれば、ほこりが舞う中でラミネート作業をしているような造船所もある。
木部のニス塗装も何回も何回も塗装を重ねる所もあれば、機械で数秒でニス塗装を
する造船所もある。結局、手間をかけていればいる程、品質も高いが値段も高い。
10年やそこらもてれば良いと思うか、100年以上持てるようにするとか、しかしながら
予算の事もある。誰だって、品質の高いヨットがほしいし、そういうのが良いのは解って
いるが、価格の問題は非常に大きい。それでも、少しでも品質の良い物を求めたいの
は人情だ。ちょっとぐらい高くても、その分以上の品質があるなら、そういうのが望ましい。
なんせ、海は人の命を預かるものでもあるし、品質がよければトラブルも少ない、おまけに
再販価格もついてくる。安全を買うという意味もある。

入門用としては、それほど考える必要も無いかもしれないが、2艇目以降なら少し考えたい
しっかりした造りがどれ程安心か、のらなきゃ解らないが、たいてい価格分の差はあると
思う。何故なら、世界の市場がそれを認めて、その造船所を存続させているという事は
それなりの理由があるからだ。でなければ、とっくにつぶれている。造船所はいかに安く
建造するかにこだわるか、あるいは自分達のコンセプトをいかにアピールしていくかに
かかっている。もちろん、品質をキープしながら安い方が良いに決まっているが、一定の
レベルをキープするには、一定のレベルの建造をしなければならない。

日本の市場は極端な例が多く、安いか高いかである。高いのはブランド力によるものだろう。
確かにブランドはその力がある。でも、その高いと安いの間にもたくさんの造船所がある。
それらの日本輸入数は極めて少ないのは何故だろう。そういう中にも良いヨットはたくさんある
のに。何故か、数が少ない。

前にも書いたが、年間建造艇数と価格での比較はかなり的を得た物だと思う。超高価なヨット
は確かに良い、それだけの物を作るには手間もかかるので、年間建造艇数が少ない。私の
知る限りでは年間1,2艇というのがあった。それから年間10艇以下、30〜40艇、100艇
150艇、大量生産艇が2000〜2500艇であるから、その差は大きい。こういう所から自分の
求める艇を探す方法もある。品質は年間建造艇数と価格で探し、その中からヨットの性格を
みてさらに絞り込む。本格的な外洋艇と言っても、いろいろある。

外洋でなければ、品質はどうでも良いかというと、これまたそうでは無い。やはり良い物は良い。
何が良いか、時化て乗った時の安心感は理屈では無く違う。トラブルも少ないし、長持ちだ。
結局、安くても、何度も買い換えられるという事もあるだろうが、良い物を長く乗るというのもある。
買い替えはロスが出るので、できれば良い物が良い。しかし、予算もあるので、要は、解って買う
という事になる。自分の求めているヨットがどのレベルにあるかを解るのが良い。

最近、ヨーロッパのCEカテゴリーというのが出ているが、Aは外洋(OCEAN)のはずだが、それじゃ
何であれが?と思う事もある。この規準はどうも、そう単純では無いのではないかと最近思って
います。あるでかいヨット、外洋艇、確かに外洋を走ってきた過去もある。だが、中身はひどかった
バルクヘッドは歪んでいたし、はがれていた。デッキは下に落ち込んでいた。もちろん無事に外洋
を走ってきたのだろうが、それでこんなに歪んでいたのでは外洋艇をは言えないのではないか。

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