第十八話 自由自在

自転車を運転している時には、何も考え無くても運転ができる。右に左にハンドルを切る
時、自然に体が動くし、自転車が傾いた時、自然に体が動きます。車を運転している時
ハンドルを切るのにいちいち考えてやってはいない。今はオートマチックが殆どだが、マ
ニュアルシフトレバーの時でも、殆ど自然にギヤチェンジをしていたし、半クラッチもそうだ。
運転する事に頭を使わずに、自然に、本能的に操縦ができる。その分だけ、意識は操縦
以外の事に費やす事ができる。きれいな景色や、通りがかりのきれいなおねえさんや、
CDから流れる音楽、そういう物を楽しむ事ができる。ドライブが好きな人というのは、何も
ハンドル操作やギヤチェンジを楽しむというより、その結果起こるフィーリングを楽しんでいる
のではないでしょうか。

ヨットもそうなれば良いと思いますね。ヨットの動きを感じながら、舵を切る。セールをトリミン
グする。その反応を楽しむ。つまり、操船が身につけば、つくほど、ヨットの動きを楽しめる。
それには回数多く乗るという事しかありません。乗れば乗る程、操船感覚は身に付き、身に
つけば付くほど、操船の事を考えなくてもできるようになる。そうなればなるほど、動きを楽し
める。通りがかりのきれいなおねえさんは居ないが、はっとする程、美しい風景に出会う事
もあるし、しびれるようなセーリング感覚を味わう事もできる。

ヨットに乗るのは遊びであって、遊びは楽をしようと思うのとは違う。スポーツをする時、楽に
するより一生懸命やって楽しむ。楽なのが楽しいというわけでは無い。楽したければ、家で
寝ていた方が楽なのです。エアコン効かせて、ビールでも飲んで横になっていた方が良い。
でも、楽ばかりでは退屈なんで、何かをしようと起き上がる。それはもっとエキサイティングな
刺激がほしいわけで、ヨットに楽を求めるのは筋違いなのです。もちろん、やるにも限度はあり
ますが、できるだけいろんな事をやった方が面白いのです。にも拘わらず。できるだけ何もし
ないで良いように、楽できるように、いろんな事を考えるというのは、求めている事をしようと
している事が矛盾します。で、結果、退屈になる。

完全オートマチックで何もしないで良いヨットに乗るより、いろんな事をして、楽しむ方が飽きない。
何かをして、その反応を楽しむ。自由自在にそれができたら、どんなに楽しいだろうか。手足の
如く操船できたら、どんなに楽しいだろうか。それはエアコンや冷えたビールより、遥かに楽しい
ものとなる。エアコンやビールはほしいが、それだけあっても退屈になる。家に居る時と変わらない
でも、エキサイティングなセーリングはヨットでしか味わえない。これがあってこそ、ヨットであろうと
思うわけです。

こういうセーリングを目指して、自由自在に遊ぶにはどんなヨットが自分には良いだろうかと考え
ます。これがヨットを選ぶ基本コンセプトです。この基本を絶対に崩さず、そして、各艇の性能や
デザイン、見た目の美しさ、メインテナンスのし易さ、予算、そういう物を見る。でも、言える事は
各部がすべては完璧にはならないという事です。そこそこ妥協が必要になります。できるだけ妥協
をしたくないと言えば、カスタムで建造するしかない。それでも、妥協は多少残ります。

それで優先順位をつけます。自由自在が最初の項目ですが、これはある程度範囲が広い。それで
次に何を見るか?私の場合は美しさです。気に入ったデザインである事が重要です。バランスの取
れた性能の良い(決して速いという意味ではありません)ヨットは美しいと思います。そういうヨット
はスタビリティーも高いし、そこそこ走ってくれる。バランスも良い。シングルでセーリングを楽しむに
は大切な事だと思います。内装の装備は二の次、広さも二の次、決してキャビンが無いわけでは
ないし、多少狭いとかその程度、充分妥協できる。装備は付け足せば良いのです。必要なら。

日本のヨットに対する価格というのは、基準が世界で最も安い部分にある。という事は他のヨットは
みんな高いという事になります。ヨットには非常に高い物もあれば中間もある。それなりの品質を
持っています。世界はそれを評価しているので、存在するわけです。ところが、日本は余裕のある
方は最高のヨット、ブランドのあるヨットを求められる。中間に存在する数多くのヨットは非常に日本
には入りにくい。それらは最も安いヨットより高いという事が先行して、その品質がどれだけ違うのか
という評価をあまりされない。その価格に見合うのかとは考えられない。そういう中にも優れたヨット
自分に合うヨットは必ずある。最低価格を基準とすると、どうしても価格が目を曇らせてしまう。

ちょっと話が脱線してしまいましたが、とにかく、自分の気に入った美しいデザインで、エキサイティング
なセーリングを楽しもうという事です。それも自由自在にです。

広いコクピットでゆったり座ってビールを飲む。とっても気分が良いです。やっぱりこれだけ広いと良いな
と思います。でも、もう一度考えましょう。ここでビール飲むだけで満足ならそれも良い。しかし、自由自在
が基準ですから、このヨットを自由自在に操船できるなら良い。でも、そうでないなら、自由自在に操船
して、セーリングをたっぷり楽しんで、そしてコクピットで飲むビールは、もっともっと良いのです。

次へ       目次へ