第九十九話 コミュニケーション

もう昔の事ですが、カスタム艇をお世話させて頂いた事があります。その時はまだメールは
一般的では無く、全て、電話又はファックスでした。様々な細かい打ち合わせが山のように
あり、ファックス用紙は焼約7,8cmの厚さになり、その他資料、図面などを合わせると10cm
ぐらいになったと思います。オーナーはいろんな要求をされる、それに対して、造船所は全てに
OKとは言わない。それは駄目とか、いろいろ応酬してくる。オーナーは俺がオーナーだから
俺の言う事を聞けと言われる。造船所は、乗れば解るとばかり、オーナーを説得しろと言って
くる。まあ、バトルのようなものでした。でも、非常にコミュニケーションは取れていました。意見
が違うだけで、コミュニケーションは良かった。オーナーが何を目指しているかを造船所が充分
理解していたし、みんな目的は同じでした。ただ、そこに達するまでの意見が違っていた。

プロダクション艇においてはこんな事はありません。しかしながら、もっとコミュニケーションを
とっていきさえすれば、ヨットがこんなに動かなくなるなんて事にはならなかったのではないか
と思います。初心者の方、ベテランの方、いろんな意見があります。いろんな楽しみ方もある
でしょう。自分のコンセプトをきちんと持っておられる方もおられる。でも、実際、頭の中で考えた
理想と現実は異なるものです。そのギャップが今の現状ではないかと思います。これ以上、動
かないヨットを生み出したら、そのうちヨット界は駄目になります。我々業者は1年365日、毎日
朝から晩までヨットの事を考えています。ですから、もっとヨットが動けるように、オーナーが楽し
めるように、サポートしなければなりません。もちろん、最後はオーナーが自分で決定する事で
すが、できるだけいろんな情報を伝える役目が我々にあると思います。そして、それがうまく行く
とオーナーはヨットを楽しめる。全てはヨットが動く事が第一だと思います。そうやって、多くの
ヨットが動き出したら、新規参入者もどんどん増える。そうしたら、我々もヨットをもっと売る事が
できるようになります。オーナーもハッピーだし、我々もハーピー、マリーナも修理業者もみんなハ
ッピーになれる。

私はオーナーの意見をできるだけ取り入れる姿勢でいきたいと考えます。でも、だからと言って、
何でも100%受け入れるわけではありません。中には無駄と思えるものもあるし、これは違うな
と思う事もあります。それらに対しては、ちゃんとお伝えしたいと思います。中には、この為に別
の業者から購入される事もありました。でも、それは仕方が無いことで、ヨットにコンセプトがあり
造船所にもコンセプトがあるように、我々もコンセプトがあります。ただ、勘違いしないで頂きたい
事は私の意見を常に押し付けるという事ではありません。最後はオーナーが決める事です。ただ
その前にいろんな情報をお伝えしたいという事です。このやりとりにはコミュニケーションが必要
です。これを大事にしていきたいと考えます。例え、プロダクション艇でもです。経費もたいしてか
かりませんし。

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