第九十話 デザイン

デザインはヨットの性能を左右しますが、同時に見た目の美しさも現します。機能性、性能も重要
ですが、それにしても、どんなコンセプトであろうが、やはりヨットは美しくなければいけません。
姿を見て、かっこいいと思える美しさを備えていなければどんなに性能が良かろうが、今一、気に
いらない。でも、あるコンセプトにおいて、性能が良く、バランスも取れていれば、姿も自然に美しく
なるのではないかと思います。

ある部分だけが突出しているようなヨットは、バランスが悪く、見た目も美しく無い。ヨットは安い買
い物ではありません。だからより安い物を求める気持ちも良く解ります。でも、心から自分のヨット
に惚れ込む事が大切で、惚れ込めば乗りたいと思うし、ヨットを良くしようとも思う。いくら安くても、
それでも大金です。それを乗らなくなるとしたら、その方が無駄金ではないでしょうか.気に入った
物が安ければそれは都合が良い。気に入っても予算が不足なら仕方無い。でも、少しでも気に入
ったヨットである事が重要だと思います。

デザインにはクラシックとモダンがありますが、ヨットの世界程クラシックデザインが幅をきかせてい
る世界は他に無いのではないかと思います。多くのモダンデザインの中で、今でもクラシックなデザ
インが数多く建造されている。そのクラシックデザインも本当に昔のままかというと、ちゃんと進化し
ています。外見はクラシックでも中身は最新だったりする。水線以下が新しくデザインされたり、或い
はリグや艤装が新しくデザインされたり、そして外見はクラシックのまま。クラシックに対する人々の
好みもあるかもしれませんが、それだけでは生き延びれないと思います。その持つ特性がモダンな
ヨットには無いものがある。

モダンなデザインは最新の船型を持ち、性能も高くなってきた。この美しさは時代の流れでしょうが、
より速くとより大きくというのがテーマなような気がします。いろんな技術の革新によって、もたらされ
た装備、コンピューターの発達によってできたより速い船型、レーサ−なんかは特にその最たる物
でしょう。モダンな美しさ、クラシックな美しさ、どちらも好みの違いですが、発展のプロセスはヨット
マンに、より快適さを与えてきた事には違い無いのですが、どうも方向にずれがあるように思えます。

全てとは申しませんが、ヨットマンをセーリングの世界から引き摺り下ろして、より快適なピクニック
セーリングとキャビンに向かってきたような気がします。良い悪いという問題ではありません。そういう
方向に造船所が向かってきた。それはヨットの世界がある特殊の人間だけでは無く、より多くの方々
が入ってくるという面では一役買ったのかもしれません。何しろ、そういう事は想像しやすいからです。
でも、それがセーリング離れを起こしていると思うのです。快適なピクニックセーリングは快適、爽やか
そういうイメージかもしれません。キャビンは広く、これも想像するに簡単にキャビンライフを思い浮かべ
る事ができる。でも、これらはヨットのほんの一部であり、まして主流になってはならない。ピクニックセー
リングも快適キャビンも、それはそれで楽しい事には違いない。しかしながら、ここからスタートして、その
先にあるセーリングの面白さ、醍醐味のような物を求める。いつもでは無くても、そこにヨットの主流があ
るという意識があれば、ヨットはもっともっと面白くなると思います。いつかは、そういう体験をしてみたい
と思うのが良い。でも、ヨットによっては、そういうアプローチがしづらい物もある。

世界のヨット進水艇数は年間20,000艇だそうです。かつては、10数万艇が1年間に進水したと言わ
れます。何故、こんなに落ち込んできたのか、それはヨットが面白く無いからです。人々はピクニックセー
リングだけでは満足しなくなる。快適キャビンだけでは満足できなくなる。購入する時に簡単に想像でき
た購入しようとする動機は、簡単に想像の域を実現してしまえる物です。簡単に手に入った快適さは、そ
れ以上の物ではなかった。他にも快適な物はいくらでもある。それで、多くの方々は乗らないか、島を
目指す事で、次の快適さを求める事になる。だけども、これにも限界があって、時間が無い方はそうも
できない。かといって、同じ島ばかりでは、これも満足できなくなる。つまり、ロングクルージングに行くし
か手は無いのです。

ところがですね、セーリングに集中すると、何かが得られます。これは購入時には想像できないかもしれ
ません。捉えどころの無い、あいまいな感覚の世界ですが、体験してみると、ぼやっと感じられる、どこが
どうと明確には言えない快感があります。この捉えどころの無い体験は、分析できない、目に見えない
ので尽きる事が無い。しかもいつもでは無く、たまにしかやってこない。こういう得がたいもの得た時、快適
以上の何かを感じます。遠くに行けない人も、ロングクルージングをする人も日常はこういう得がたいもの
を目指してはどうでしょうか。それには、やはりそういう目でヨットを見るようになってほしいと思います。

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