第八十六話 軟弱ヨットマンの薦め

昔、登山をした事がありますが、軟弱コースで、もちろん冬山など行きません。真夏の登山に限る。
知人には冬山登山で抗生物質と注射器を持っていくやつが居ました。ロッククライミングする奴は
絶壁にへばりついたまま一晩過ごす豪傑も居た。でも、私は軟弱登山でした。軟弱登山ですから、
ある程度の体力があれば誰でも登れる登山です。それでも、真夏でも頂上付近には残雪も残って
いるぐらいの山でしたので、そこそこの、いや、私にとってはかなりの快感を覚えたものです。

野球なら1000本ノックを受けるのはご免こうむるが、少しは練習してうまくはなりたい。そして、それ
なりに面白いのが良い。典型的な軟弱コースです。でも、軟弱は軟弱でも、少しハイレベルの軟弱
コースを目指したい。いくらなんでも、軟弱過ぎては得られる快感も少ないし、何と言っても飽きてくる
お嬢様野球じゃ面白くはないんです。でも、豪傑野球もしんどい。

ヨットでも同じ。世界一周や大嵐を乗り越えて走るクルージングはご免だが、それとてピクニックセーリ
ングでは物足りない。ちょっとハイレベルな軟弱ヨットマンを目指します。ヨットマンとは言えないという
方もおられるでしょうが、ヨットマンの定義はどうでも良いのです。ヨット持ってるだけでヨットマンと呼ん
でも構わない。兎に角、身体的に無理が無く、でも、快感を得られるセーリングがしたいのです。

それがお奨めのスポーツクルージングです。大海を渡る事も無く、時化の中を何日も走る事無く、様々
な技術に長けているわけでも無く、それでも素晴らしい体験ができる事がわかりました。ひょっとしたら
大変な冒険するよりも、こちらの方が面白いのではないかとさえ思います。大海を渡るのとは別のもの
ではないかと思います。感じる事が違うのではないでしょうか。ただ、ひたすらセーリングするだけで、
こちら側の接し方によっては最高の快感を得る事ができると思います。それは、スポーツする事です。
何でもそうですが、スポーツすると疲れますが、一種の爽快感がある。ヨットの場合、その爽快感+α
があると思いますね。

軟弱とは言っても、少しはヨットの事を学ばなければなりません。それがヨットで遊ぶルールです。ルー
ルを知らずしてスポーツはできませんので、基本的なセーリングは学ぶ。その基本さえ解れば、後は
実践において、試し、その反応を見る。セーリングの基礎知識から各装備の役目と使い方、そして、
ありがたい事に、現代のコンピューター的技術はありませんので、自分の目で見て常識的な頭脳で
考えて解る事が多い。そうやって、セーリングする。

速く走っても相手が居ないと面白く無いのではという方もおられますが、ところがヨットはそうでは無い。
一人で走っても面白いのです。快走すると、自分だけでもアドレナリンが出てきます。何故なんでしょう
かね。と、気がつきますと、相手が居ました。自然が相手でした。誰かより速く走るのも快感ですが、
この快感は人工的であり、不快の場合もある。でも、自然相手の場合、どういうわけか丁度良い具合
に滑らかな走りをすると、快感になる。しかも、調和できないからといって、不快にはならない。また、今
度という具合です。人は人工的なものには不快を示すが、自然相手なら文句の言いようが無い。その為
にはピクニッククルージングを脱し、スポーツした方が良い。どこまでやるかは人それぞれです。レーサー
の如きヨットで、ケブラーセールでも良い。クルーを一杯のせてみんなでやっても良い。そしたら、チーム
ワークさえも楽しめる。でも、クルーの居ない人は自分だけでも良い。ダクロンセールで良いし、ファーラー
でも良い。兎に角乗りこんで、微妙な変化さえも感じられるようになればなる程面白くなる。

メインセールをスムースに上げる。タック、ジャイブのスムースな動き。いつでもすぐにできる。舵の操作
とセールのトリミングを自分の知識を全て試して、見て、考えて、次の動作をして、最後に全てを感じる。
知識はやがて増えてくるし、動きもスムースになり、自分のヨットに精通してくる。そうなればなる程、頭を
使う量が減ってくる。そうなればなる程感じる事ができる。その感じる部分をできるだけ多くしていく。

軟弱コースではあるけれども、ハイレベルな軟弱コースがお奨めです。どうでしょうか?騙されたと思って
軟弱コースをある一定期間やってみませんか?きっと気に入ると思います。誰でもです。頭で考えて面白
く無いと結論を出すならば、何も得る事はありません。実際やってみて結論を出してください。できれば
ワンシーズンぐらいはやって頂きたいですね。ピクニックセーリングと織り交ぜながらで結構ですから。
是非、軟弱ヨットマンになって、最高のフィーリングを得ようではないですか。

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