第六十八話 世界のヨット

1972年から1976年の5年間に世界中で進水したヨットは590,000艇に登るそうです。セーリング
熱が最高であった時、それが70年代だそうです。その中でも1974年は最高の年で、この1年間に
140,000艇が進水した。80年代に入って、その数は減少し、90年代の初めが最低であったそうで
す。インターネットバブルが崩壊し、同じように造船バブルも崩壊したと言われます。その後、造船業界
は再び盛り返し、今では年間20,000艇が進水している。

一方では、都市に近い人気のマリーナは空きバースの長い列だそうです。それでローカルマリーナに
係留しながら、空きを待つ。そうすると、ローカルマリーナも値段が上がってきた。都市に近い人気マリ
ーナは住み込む連中も多い。それでなかなかバースが空かない。長いのになると5年待ちというのも
あるそうです。考えてみると、土地買って家建てるより、ヨットに住んだ方が安上がり。マリーナには水
も電気も、電話もケーブルテレビもきている。都市型マリーナでは周りに何でもあるし、便利、通勤にも
便利。そういう考え方もある。土地に根付く日本人にはちょっと考えられない。

落ち込んできたマーケットを再び盛り返してきたのは、前話で書いたジャイアントビルダーの価格戦争
かもしれません。これによって、新規参入者を呼び込んだ功績は大きい。こういう流れは、ヨットをする
層がもっと広がってきているという事を示している。一部の特殊でも何でも無い人たちがオーナーにな
っていく事によって、マーケットが拡大する。つまり、より大衆化されてきている。それで、大衆化されて
皆がこぞってセーリングをしているかというとそうでも無い。でかいマリーナは、外に出るだけでも一苦労
出ても、デイセーリングが殆どか、どこか静かな入り江でアンカーを打って1日を過ごす。或いは、全く
出ないのも多い。

ある話によると、セーリングとは言っても全体の75%はエンジンを使っているという話がある。これは日本
と同じじゃないか。ヨットに住んでいるか、出ても75%はエンジンで走る。それでも、彼らには楽しむ方法
がある。入り江にアンカーを打って、1日中ピクニック気分でおしゃべりをしたり、日光浴したり、海水浴を
楽しんだり。静かな海で読書だってできる。こんな事は欧米人には合うかもしれないが、日本人気質には
無理。やったとしても、年に1回か2回が関の山。

もちろん、欧米人だって、もっとセーリングしたいという連中も多い。彼らはレースにはまったり、或いはク
ルージングでロングに出かけたりする連中も多い。でも、どちらでも無い層が居る。レースには出ないし、
ロングに行こうという気も無い。だけどもセーリングしたい、楽しみたいという層が居る。レースで勝には
ヨットもさることながら、優秀なクルーが必要だ。だけでも、そんなクルーを確保するのも煩わしい。そういう
人達は純粋に、セーリングを楽しみたいだけなのです。それで、ショートハンドで快適に走れるヨットがある。
シングルハンド艇もそうだ。デイセーラーというと、小さなヨットというのが相場だったが、最近では様相が
変わり、でかいヨットのデイセーラーというのが開発されてきている。

ショートハンド、又はシングルハンドのデイセーラー又はウィークエンドセーリング。こういうジャンルが増えて
きている。これは日本人に合うやり方だと思う。ヨットに住んだりしない日本人、入り江にアンカーを打って、
読書をしない日本人、後は、レースをするか、ロングクルージングに行くか、デイ/ウィークエンドセーリング
しか無いじゃないですか。レースも良し、ロングも良し、時間が無いならデイ/ウィークエンドセーリングが
日本人には最も似合う。今まで75%のエンジン走行だったのを、25%に抑えて、75%のセーリングをし
ようではないですか。その為には、一人で乗るか乗らないかに関係無く、シングルハンドをマスターしておけ
ば、いかようにもなる。どんなにでかいヨットであっても、ダブルハンドで行けるようにしておけば、いかように
もなる。デイ/ウィークエンドセーリングは、あらゆるジャンルを超えて、万能なセーリングです。毎日ロング
に出るわけじゃ無し、日常をいかに楽しむかは重要なポイントです。日常の帆走を楽しんでいるからこそ、
たまの宴会がより一層楽しくなり、家族でヨットに寝泊りするのも、一層楽しくなる。帆走無しでは、ヨットに
寝泊りするのも飽きてくる。帆走が充実してこそ、全ては整うと思います。何故なら、それがヨットだからです。
帆走しないヨットはもはやヨットでは無くなり、最初はエキゾチックな家、やがてはエキゾチックでも無くなる。

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