第六十二話 造船所いろいろ

日本のマーケットは海外の造船所にとっては、非常に小さい。無きがごときものです。
年間に日本全国で100艇も進水しないのですから、確かにそうです。それで、一般的
には日本からの発注に対して、あまり面倒くさい事はしたがらない。マーケットが大き
ければ、いろんな対応をしてくるんでしょうが、通常はしたがらないのです。これはヨット
だけに限らず、どんな業界でも同じでしょう。昔、あるコンピューターメーカーの営業が
言っていました。いろんな要求をメーカーに出すが、全く対応してくれない。でも、だんだ
んと実績が大きくなってきた時、はじめてメーカーが対応するようになってきた。

しかしながら、マーケットは小さくても、きちんと対応しようとする造船所もあります。全て
何でもというわけではありませんが、できない事ももちろんあります。あくまでプロダクシ
ョン艇なので、カスタムというわけには行きません。しかしながら、オプションリストに無い
物でも、できる限りの事を、お客様がご希望なら叶えようという誠実な態度で接する造船
所があります。”多くの造船所がよりプロダクション化しようとする動きの中で、うちはその
反対を目指している。より個人のオーナーが出来る限り満足できるような対応を、カスタム
的な対応をしたい”そう言っていました。実際のやり取りをしながら、確かに、その方針の
通りで、担当者は、いろんな事を調べたりしてきます。

ある造船所は、こちらの注文におかしな点があったとしても、一切気にする事無く、言われ
たままでやり過ごす造船所もある。しかしながら、一方で、こういう風にしたらどうか、とか
これはこれで良いのか、とか、ひとつひとつ確認してくる造船所もある。こういうやり方を
全てのオーナーにする事は実に大変な事なのです。でも、それをやる造船所というのは
信頼できると思います。

ヨットというのは、安い買い物ではありません。私も業者として、やっていますが、こういう
造船所には敬意を表したいと思います。こういう造船所に対する時、こちらも安心できます。
売ってしまえば終わりというのでは無く、その日本に自分達の造ったヨットが進水する。そ
してそのヨットを見て、これがどこどこのヨットだと、見たヨットを評価する。そこで、自分達の
ヨットがどこで、誰に見られようが、これが我々の建造したヨットだと言える事を重視していま
す。従って、逆に、オーナーの要求があまりにも品質にそぐわない場合は、反対もしてくる。
そしてどこかでお互いの接点をさぐろうと努力します。こういう造船所もあるのです。

確かに、大量生産艇よりは少し高いです。でも、その品質と対応について、その価値は充分
にあると思います。かつて、こちらが要求する内容はオプションリストに無い限りは拒否する
造船所もありました。また、逆に何でもOKという造船所もあった。でも、実際乗ってみると、
うまく行かなかったり、という事もあった。そういういろんな経験をしてきた中で、こういう造船
所のヨットを日本に紹介できる事は私にとっても、幸いであります。

日本ではヨットに対する認識がまだ始まったばかり、今は低迷していますが、やがては再び
ヨットが盛り返して来ると思っています。これだけ海に囲まれているのですから、係留費が高
いとか、いろいろあるでしょうが、でも、認識が変わってくれば、状況も変わる。小型ヨットが
もっともっと増えて、より多くの人達が気軽にセーリングを楽しめるようにもなる。いろんなコン
セプトのヨットが増え、自分達のスタイルで、よりヨットが身近に感じられるようになる。そうな
ってくると、大型艇も活気がつくでしょう。そうなるといろんな造船所があるという事にも気が
つくようになるでしょう。まだまだある一面しか紹介されていません。

70フィートや80フィートのヨットレースに、個人の自家用ジェット機で飛来し、レースを楽しんで
いる。そういう大金持ちのヨットもあれば、小さくても自分達の楽しみとして、日常に遊ぶ人達
もたくさん居る。日本では個室トイレ、インボードエンジン、天井の高さ、キャビンの広さ、そうい
う条件がたくさんつきます。でも、そうしている間に、欧米人は自分達のスタイルで楽しんでいる
んです。心の豊かさとは、これがあればというものでは無く、あるもの、できる事を喜んでやる
所にあるような気がします。あれがあればと思えば、いつでも同じ。次の条件が無ければでき
ないとなる。

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