第五十八話 復元力

ヨットはヒールをするものであるから、それに対する抵抗力として復元力がある。本来、
この復元力はセーリングにおいては重要であると思うのですが、昨今ではそれがあまり
重要視されていないような気がします。

外洋艇においては復元性消失角度は120度以上というのを何かで読んだ事があります。
消失角度というのは、起きあがろう力が無くなる角度という事になります。通常、沿岸を走
っている限りにおいては、こういう事はあまり関係無い事ではありますが。ただ、沿岸沿い
であっても、復元性というのは重要な要素で、通常のセーリングにおいて、初期のヒール
ですが、どの程度の復元性を持っているかは、セーリングに多いに関係する事になります。

大きくヒールすると真っ直ぐ走れなくなる。前話でも書きましたが、それでは困るので、舵を
切る。舵を切るとそれなりに真っ直ぐ走れるようになるも、舵の抵抗は多いに増すので、風
を逃がして走る事になる。結局、同じ強さの風で大きくヒールするか、少しヒールするかは
風をどの程度逃がして走らないといけないかにかかわってくる。俗に言う、腰の強いヨットは
それだけセールが受ける風に対する抵抗力の強さに関わってくるので、セーリングをする
という意味では重要になってきます。腰の軽いヨットはちょっとの風ですぐに大きくヒールする
そうすると早めに風を大きく逃がすか、そうでなければ元々セール自体が小さい。こういう事
はセーリングを楽しむという事においてはちょっと物足りなくなる。せっかくの快走チャンスが
減ってしまう事になる。

反面、重いバラストを設置すると、排水量が重たくなる。ここが難しいところですが、それで
上部構造をできるだけ軽くして、重心をできるだけ下に持っていく。デッキをサンドイッチ構造
にするのもひとつの方法ですし、キャビンを必要以上に大きくしないのもひとつの手です。
何でもそうですが、重心は高いより低い方がいろんな意味で安定していますから、良いんで
す。車を運転していて、ワンボックスのいような背の高い車は横風でゆれる事があります。
それと全く同じです。ただ、車は舗装された道路を殆ど走っていますが、ヨットはそういうわけ
にもいかない。おまけに波という物がありますので、余計重要です。道路が動いているような
ものですから。

重心の低いヨットに乗っていますと、何かどしりして安定感があります。この事は人間にも安心
感が与えられます。そして実際、腰の強いヨットは疲れも少ないです。そういうヨットでは少々
吹いても恐怖感が無いし、ある程度吹いた方が面白いの感じるようになる。それだけキャパシ
ティーが大きいと言えます。ただ、反面、全体重量がかなり重くなると微風では走らないので、
物足りなくなる。それで、サンドイッチ構造にしたりしますと、その分価格が高くなる。おまけに
マストにカーボンなどを使うと、それは良いのでしょうが、価格が高い。

それにしても、最近のヨットはバラストが少ない。逆にキャビンはでかい。セーリングを楽しむとい
う姿勢からは離れてきているように思います。それが欧米のスタイルなんでしょうね。でも、その
中でもちゃんとセーリングを楽しもうというヨットもある。つまり、欧米人にはいろんなスタイルが
ある。それで良いんだと思います。ですから、日本人の我々も自分達のスタイルに合うタイプを
探さなければなりません。我々は彼らとは異なるスタイルを持っていますので、何でもそのまま
もってきて合うわけでは無いと思います。

日本人は西洋文化を取り入れ、そして日本人流にアレンジして自分達の文化に根付かせるとい
う特技をもっています。そうする事によって独自の文化を編み出していますが、ヨットもそういう過
渡期にあると思います。レースには世界共通のルールがありますが、クルージングには無いわけ
で、自分の性格、生活スタイル、そういう物を西洋人風に変えて、ヨットに合わせるには無理がある。
ならば、ヨットを自分達のスタイル合わせる事がヨットを楽しむ方法だと思います。ヨットに対して、最も
望む物は何か?何故、ヨットに乗るのか?決して難しい話では無く、ヨットでしか味わえないセーリン
グを楽しみたいからだと思うんです。欧米人も同じだったと思います。でも、大衆は別の方向にいって
しまった。というか、行かされた、誘導されたとも言えます。でも、その誘導は欧米人にはヨットを
別の面で楽しむという国民性ををもち合わせていた。それはそれで良かった。でも、日本人は違うと
思います。今から、100年経ったら、日本人ももっと欧米人のようなスタイルになるかもしれませんが
ここ何十年はそうはならない。

日本人はゆったりした気分というのが長く長く続くと飽きてくる。毎日温泉通いではそのうち飽きてくる
たまにだからゆったり気分に浸れるのです。だから年に何回か温泉でゆったりしたいと思う。でも、
たまにで充分なのです。ヨットにゆったり感を求めると、年に何回かで良いのです。でも、エキサイトを
求めると、しょっちゅう味わいたくなります。ヨットにはその両方がある。それで、エキサイトな感覚を
第一に、年に何回か、ゲスト呼んで、ゆったり感を味わう。そういうメリハリが良いと思っています。でも
ゆったり感優先にしますと、エキサイティングなセーリングは全くできなくなります。船もそういう船を選
ぶでしょうし、意識もそうですから、ヨットはゆったりであっても、決してエキサイティングにはならない。
それが今のヨット界の現状ではないかと推測しています。

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