第五十四話 こだわり

こだわり過ぎと言われる事がある。確かにそうかもしれないとも思う。でも、みんなが
自分なりのやり方で満足しているのなら、それでどうこう言うものでは無い。みんな
がどうして良いか解らないなら、見たところ、そのように見えますが、それなら、セーリ
ングをもう少し突っ込んでやって見ませんか?そういう事です。それは今持っている
ヨットでもできる事であり、何も、当社で扱っているヨットでなければならないという事
ではありません。

意識をそういうものに変化させると、今あるヨットをどういう風に動かしていこうかと考え
るようになります。どうやってセーリングを楽しんでいくか、それはまずそういう意識を
もって、セーリングに出るところからはじめなければならない。そして、実際動かしていく
といろんな事が見え始める。

私は外洋を目指す方にシングルハンドデイセーラーを勧めるわけではありません。大人
数で宴会したり、遠くに行ったり、或いは、ヨットを別荘代わりに使いたい方に、そういう
ヨットをお奨めするつもりもない。でも、あまりにも、そういう所を目指したが、結局はそれ
が、できない環境にあり、放置されている状態があまりにも多いので、これは方向を変え
た方が良いですよと申し上げたい。これによって、みんながそういう方向転換をされるわけ
ではありません。恐らく、それでも多くの方々は今までと同じ方向に進むでしょう。でも、
少しでもセーリングに目覚めて、楽しむ方々が増える事を願うものです。

実際、欧米でも多くのヨットがデイセーリングしかしていなかったり、動いていなかったりす
ると聞きます。それでも、彼らは、そういうスタイルの楽しみ方を知っている。自分の楽しみ
方を知って、やれればそれで良い。ところが、それでも一部には変化がおきている。
84歳のドイツ人が最近ノルディックフォーク25を発注してきたそうです。気軽にセーリング
を楽しめるヨットがほしかったそうです。あるカナダ人は35フィートの乗り換えで、ノルディク
フォークを注文した。世界の多くの方々がもっと気軽にセーリングを楽しみたいという気風
になってきている。そのおかげで、造船所は大忙し、この25フィートしかないヨットに1年も
待たなければ手に入らない状態です。アレリオン28もそうです。今まで、セーリングをもっと
と思うのはレースでした。でも、セーリングはレーサーだけのものでは無い。クルージング派
ももっとセーリングを楽しめるはずです。そういう動きから、他の造船所が徐々にそういうデイ
セーリング向きのヨットを新規に市場に投入してきました。本当はこういうスタイルのヨットは
日本から世界に出ていっても良かったのではないかと思います。何故なら、ヨットに泊まらな
い、遠くに行くほど暇は無い、それじゃどうやって楽しむの?と聞けば、デイセーリングを充実
させて、日本のスタイルはこうだから、シングルハンドのデイセーラーが最も発達してるんだ
と答えられたはずではないかと思うのです。それじゃ、それに適するヨットはどんなのが良い
のか、そういうヨットが日本でデザインされ、建造され、世界に輸出される。大量生産で、でか
いヨットは欧米の大規模造船所にはかなわない。でも、このスタイルは日本から出ても良かっ
たのではないかと思います。でも、そうはならなかった。それはどうやったら楽しくなるかを自分
達で考えなかったし、模索しなかった。与えられた物を使ってみたが、今一合わない。それで
諦めてしまったからではないかと思うのです。

でも、今からでも良いじゃないですか。もっと気軽にセーリングを楽しむという方向にシフトされ
たらどうでしょう。何でもある動かないヨットより、気軽に帆走を楽しめるヨットにシフトされたら
どうでしょう。ちょっとでも時間が取れたら、セーリングに行きたいと思うようになったら、楽しい
はずです。ヨットはセーリングする事で発達してきました。ところが、いつからか、ヨットは別の
付加価値を持って建造されるようになった。その付加価値は一見非常に有益であるように見え
た。でも、その付加価値はヨットでなければならないものではなかった。逆に、その付加価値は
ヨットがヨットである価値を阻害するものでもある。欧米はその付加価値にセーリング以外の価値
を見出し、それが国民性としてもあっていたのでしょう。それでヨットはさらに発展していく。しかし
ヨットにつけられた付加価値はボートでも味わえる。この付加価値はさらに膨れ上がり、帆走以上
の価値を見出される。でも、過ぎると、帆走そのものをスポイルしていく。気がつけば、ヨットである
必要性さえ無くなる。ここで、ヨットは再び、本来の価値を求められてくる。

再び、セーリングに戻ってきている。何故なら、付加価値はヨットだけにあるものでは無く、ヨットに
しか無いものは帆走であるから。帆走を二の次にしてきて、付加価値だけを楽しむには限界があ
った。そういう人達が、再びシンプルな帆走を求めて、クルーにも煩わされず、メインテナンスにも
煩わされず、気軽にセーリングの醍醐味を味わいたい。そういう人達が増えてきた。弁当もって
気軽に出る。セーリングのエッセンスを味わう。丸一日過ごす必要は無い。だから気楽なのです。
マリーナで待ち合わせて、それから奥さんの買い物にだってつきあえる。そういう気軽さを持って、
奥の深いセーリングに関わるならば、実に最高のおもちゃとなるでしょう。

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