第五話 音楽

音楽が好きな方は多いと思います。演歌からポップス、クラシックにジャズ、どれも伴奏があって
メロディーがあり、それが変化しながら進行していきます。この変化しながら進行していくというの
が重要です。人間は前の音の記憶があり、その流れがあって感動したりするそうです。いきなり
ある音を聞いて感動するわけでは無く、それまでの過程があって、そして出てきたメロディーなり
に感じるわけです。これがもし、何の変化もしないとしたら、これこそ退屈極まりない。全ては変化
して進行する事に感動を感じるわけですね。つまり、いかに変化しながら進行していくかを演出しな
ければ、人生は退屈になってしまう。それが良い変化ならば、嬉しいし、思わしくない変化ならば、
嫌になる。でも、大局的に見るなら、それも変化であり嫌だけで退屈はしない。ここが微妙ですね。
嫌な変化はマイナスとしましょう。退屈もマイナスでしょう。好ましい変化だけがプラスです。まあ、
変化しない安定もプラスといえますが、このプラスはやがてマイナスとなっていきます。退屈という
マイナスです。変化を起こすとプラスかマイナス、変化を起こさないとマイナス、それなら変化を起こした
方が良いに決まってます。

音楽は安定から始まり、変化し、また安定へと向かう。それが安定ばかりだとつまらなくなる。まさ
しく人生そのものです。いかにメロディーを変化させるか、これが人生の充実感に繋がる。ジャズと
いう音楽はメロディーがあって、そのあと数コーラスのアドリブが入ります。アドリブは決まったルール
はありますが、その範囲内なら自由に即興演奏するわけで、それの良し悪しが演奏家の腕の見せ
どころとなります。自分自身で、どのような変化と進行をさせるか、自分次第という事になります。
それによって退屈だったり、エキサイティングだったりするわけです。音階やコードは退屈でもエキサイ
ティングでも無い。それを作る人間がそうしている事になります。全ては同じなのではないでしょうか。

ヨットは人生における変化を求めています。ヨットが家に居る時と全く同じになったら、変化は無いわけ
ですから、退屈になるのです。最初は良いでしょう。ヨットという乗り物、海、マリーナ、でも、そこには
それ以上の変化は無い。明日、言ってみると海が無くなっているというのなら変化ですが、ちゃんと
ある。そこに住まう事は変化では無くなり、安定となる。住まう家なら安定していなければなりません。
何故なら、外は変化だらけ、家では安定したいのです。ヨットが住まう家にならない限り、安定したら
退屈になるだけです。

それでヨットの変化はセーリングにあるのです。波と風は音楽で言うなら伴奏です。そして乗り手がメロ
ディーを担当しているようなものです。優れたジャズプレーヤーは見事にアドリブをやってのけ、聴く者に
感動を与えてくれます。下手な奴は聴くに耐えない。でも、ヨットは誰かに見せるわけでもないので、
自分が自分のレベルでアドリブをやれば良いわけです。そして、伴奏にうまくマッチした時、感動を覚え
ます。腕が上がれば、伴奏にマッチする頻度は高くなるでしょう。でも、誰でも時折はマッチできるのです。
伴奏は常に変化し、進行していき、決して止まらない。いつでも自分次第なのです。

この変化をヨットから引き離して、キャビンライフばかりを強調するようなヨットライフは、やがて退屈になる
事絶対です。そこに住んで安定を求める以外、キャビンライフは退屈になるのです。キャビンはだから不要
と言っているのではありません。退屈なキャビンライフを退屈から安定にしておく事、それには変化が別に
あって、その合間に安定があるのが良いのです。ですからセーリングをして、その合間にキャビンライフが
あるのが良いのです。という事はキャビンばかり気にするのでは無く、帆走についてもっと積極的でなけ
ればなりません。どうせレースはしないから、といっている人はたいてい乗らなくなる。

ですから、キャビンキャビンとお題目のように唱えるのはやめて、どれもそこそこのキャビンはあるものです。
少し、セーリングの方に譲って、いかにセーリングを楽しくやるかを考えて頂きたい。レースはただ速いだけ
では勝てません。どのコースを取るか、相手との駆け引き、そんな事が重要です。でもレースじゃないから
その時、最高の走りだけを目指せば良いわけです。常に変化する波と風にアドリブで最高のセーリングを
目指しましょう。その方が絶対退屈しない。エキサイティングなのです。

帆走にはセールエリア、船型、スタビリティー等々の他にも多くの要素がありますが、造船所は全てのデータ
を提供してくれるわけではありません。ですから、少なくともカタログから解る事から、ある程度の概略を掴む
事は必要でしょう。自分がシングルかダブルか、或いはクルーが数人常に居るのか、そういう事から選ぶ
ヨットも変わってくる。キャビンの大きさjから何人乗れるかを考えるのでは無く、このヨットを操船するには、
何人必要か、という風に考えてはいかがでしょう。逆に、一人なら、二人なら、どんなヨットが良いかとも考え
られます。とにかく、今のヨットはキャビンばかりに絞ってきているヨットが多すぎる。長さが決まったヨットに、
より広いキャビンを提供する為にフリーボードを高くする。もうそんな必要無いでしょう。既に充分過ぎる。
それらはヨットに住まう欧米のライフスタイルかチャーターヨットビジネスに合うデザインとしか思えない。
本当にオーナーがセーリングをする為には、もう充分過ぎる広さです。

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