第二十六話 イタリアのコマー社

今年から取り扱いを始めたヨットです。かつては30フィート以下もありましたが、今では
33フィート以上、レギュラーでは65フィート、カスタムで現在73フィートを建造中です。
年間建造艇数が約150艇ですから、多くはありません。いわるゆ個人オーナー市場を
ターゲットにおいています。

このヨットを選んだ理由は、クルージング艇ながら、帆走を意識している事です。これは
重要なファクターだと思っています。最近のヨットがデッキを高くしてキャビンスペースを
稼ごうとしていますが、このヨットは低くしている。もちろん、以前はこれが当たり前でし
た。この数年、急激にデッキが高くなっていった。低いデッキと言っても、充分な広さ
あるし、なんでこれ以上天井高くしないといけないんでしょう。人間が大きくなったのなら
まだしも。内装は充分に木を使って、落ち着きもあるし、造りも良い。バルクヘッドなんか
もちゃんと船体にラミネートしてあるし、基本デザインとしても、適度におしゃれであり、
全体的にはヨーロッパのトラディショナルデザインです。

ジャンルとしては、艇種によってコースタルから外洋と区別され、選択もし易い。全体的
に帆走を意識している中で、さらに高い帆走を望まれる方にはスポーツタイプもある。
個人オーナー向けですので、オーナーのコンセプトによって、マストをカーボンにしたり
メインファーラーにしたりもできるし、セルフタッキングもできる。こういう選択のフレキシブ
ルさは良いと思いますね。こういう仕様は本当は造船所にとっては面倒な事なんです。

マストは9/10のフラクショナル。もちろん、メインシートトラックはコクピットにある。バック
ステーアジャスターも当然ある。キールはもちろん鉛。ちょっと良いのが、ブームにコクピッ
トを照らす照明が埋めこまれている。これが結構おしゃれだし、コクピットライトとして、夜間
コクピットで食事する時には重宝する。

使っているステンレスは全て316を採用しているし、船体は他と同じようにポリエステル
樹脂だが、外層の2層にはビニルエステル樹脂を使って、船体が水分を吸収するのを防い
でいる。こういう見えない所にちょっと気を使って、品質を上げているし、それでいて高価に
ならないような配慮がある。もちろん、大量生産艇ほど安くは無いが、十分以上の価値が
あると思う。何でもかんでもグレードアップすれば良いにきまっているが、そこまではやらな
い。誰でもスワンが買えるわけでは無いのですから、こういう肝心なところにちょっとグレード
を上げている。これが、長く持つ秘訣かもしれない。

コンセプトはクルージングなんですが、必要以上にクルージングに偏っていない。帆走を楽しむ
というコンセプトが生きている。船体もしっかり造っているし、それでいて高価では無い。

こういう造船所のコンセプトが気に入って、取り扱いを開始致しました。私の考え方にあってる
と思ったからです。最後に、ちょっと面白いエピソードを紹介しましょう。かつて、イタリアの大金
持ちがスポンサーになって、アメリカズカップに挑戦したのを覚えておられますでしょうか?
その人物が、次の艇はこのコマー社で建造すると発表したのです。この大金持ち、この地の
ローカルの飛行場を買収した。地元新聞にも大きく取り上げられたのです。そして、造船所も
買収、ところが、イタリア政界の汚職事件が問題となり、多くの政治家が逮捕、それにこの人物
も関わっていた。それで、ある日、ホテルで自殺してしまったんですね。これで全ては白紙とな
りました。映画のような話でした。現在は従業員160人、年間150艇、確か、1960年代に創
業して、木造艇から始めた造船所だったと思います。超近代的なベルトコンベアー方式では無く
まだ、手作りの要素が残り一艇づつ仕上げる造船所です。

次へ         目次へ