第七十七話 大から小へ


      

昨今の中古艇の出所としての傾向は、オーナーの高齢化による理由というのが多くなってきました。それは、誰もがあらがいがたい自然の成り行きなのかもしれません。その多くは70代の中盤あたりかなと思います。でも、中には、全く身体は元気なのにという方もおられ、でもヨットから足を洗う事を考えるのは、世間的な空気感、そろそろ俺も、なんて思ってしまう方もおられる様です。

70代にさしかかってきて、誰もが考える事かもしれません。でも、実際は人に寄って、年の取り方はバラバラですから、勝手に世間の空気を読むより、自分自身に問うた方が良い。ある方、ハワイでの事だそうですが、78歳からヨット始めた人が居たそうです。そう言えば、ずっと前ですが、このぐらいの年齢の方がアメリカから日本にクルージングしてきた人が居た事を思い出しました。アメリカでも珍しい事かもしれませんが、でも、日本人は空気を読み過ぎるという感じもしないではありません。

ヨットが好きで、まだ乗れる。でも、世間的には、なんだかちょっとという気もする。そういう方々も少なく無いと思います。引退もあるでしょうが、逆に、もっと楽に乗れるヨットという選択肢もあるかと思います。それがデイセーリングをする事。それにでっかいヨットは必要無い。


ヨットやめて、何します? 何もしない事は無いと思います。これまでヨットで遊んでいた人が、ヨットやめて何をするか? それで、元気に長生きできる保証はどこにも無い。あれだけ、仕事引退したら、もっとヨットで遊べると思っていたのが、引退からちょっと過ぎると、今度はヨットからの引退の二文字が見えてくる。それじゃあ、人生面白くない。

そこで、ヨットサイズを小さくして、デイセーリングを楽しむ事をお薦めしたいです。もちろん、できれば、デイセーラーがお薦めです。何故なら、デイセーラーはデイセーリングが得意なのですから。元々、デイセーラーが出現したきっかけは、ここで言う高齢化によって、それまで乗ってきたヨットとは違うヨット、気軽にシングルができて、尚且つ帆走性能がある程度高いヨット、というアイデアをあるアメリカ人が考えて、デザイナーに依頼して建造したのが今日のデイセーラーの始まりです。つまり、同じ事情です。

既に何度も書いてきましたが、デイセーラーは同じサイズでも、クルージング艇とは異なり、スリムですし、フリーボードも低く、船体ボリュームも小さくなって、圧倒感が無い。それでいて、デイセーラーの存在感は圧倒的です。操作もシングルで楽にできますから、これまでの経験から、非常に楽にセーリングを楽しめると思います。それにデイセーラーは、ただ楽な操船だけでは無く、セーリングを楽しむヨットなので、ちょっと操作を加えて、その反応を楽しむなんて事もあり、むしろ、そうやってセーリングをより楽しむ事が本来のデイセーラーの在り方で、年齢は関係ありません。

若かりし頃は、小から大へという流れだったのでしょうが、年取ったら大から小へ、でも、ただ小さいだけでは面白くありませんから、デイセーラーの性能、操作性、存在感、美しさは、そういうベテランの方々でも十分納得できるかと思います。また、デイセーリングの行動フィールドは、それまでとは違って狭くしますが、それだけに気軽になれて、それで、よりセーリングの味わいは深くなる。人生最後を締めくくるヨットとしては、実に味わい深いヨットライフとする事ができるのではないかと思います。


完全に足を洗うのも自由ですし、最後までヨットにこだわるのも自由。それはヨットがどうこうでは無く、人生がどうこうの話ではないでしょうか?最後に気に入ったデイセーラーで自由自在のセーリングというのも悪くないと思う次第です。むしろ、そういう合理的な考え方は、その方の生き方を表すと思います。もちろん、大から小へは、デイセーラーだけを指すわけでは無く、クルージング艇でも良いと思います。要は、最後のヨットに何を求めるか?

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