第七十二話 カスタム建造の意外?


      

ヨットをカスタムで建造する、なんて考えた事がある方はそうは居ないと思います。でも海外では意外にカスタムで建造する方が多いです。もちろん、全くのゼロからのスタートですと、かなりの道のりをたどる事になりますが、既にカスタム建造されたヨットからたどって行くと、案外やり易いものです。例えば、プロダクション艇でも、レベルが高いヨットでは、数多くのオプション設定がありますが、その変更内容がさらに広がって詳細に及ぶと考える事ができます。

上記の写真は既に建造されたカスタム艇で、いわゆるハイパフォーマンスのクラシックデザインのヨットで、PC55と言いますが、この基本デザインで、既に、PC47とP66があります。PC47は、今現在建造中ですが、この時も45フィートでも良いと言われましたが、そのまま47フィートにする事にしました。そのオリジナルデザインから、少しフリーボードを低くし、、艤装も少し変え、デッキアレンジメントも変えて、その他、いろんな箇所に手を加えたりしています。

カスタム艇のメリットは、当たり前ですが、非常に品質が高い事です。職人の手間が随所にかけられています。そして、もちろん、帆走性能もオーナーのコンセプトに合っています。オーナーがどんな乗り方をしたいのかに合わせた性能や艤装をするというのがカスタムで、見た目のデザインは、このヨットを選択した時に最初に気に入ったところですから、そのイメージは維持します。この様に、カスタムと言えど、デザイナーの既にデザインした処から出発しますので、最初からイメージは出来ており、これなら、やり易いと思います。

但し、造船所は建造し、世に送り出すのですから、プライドもあって、もし、変な要求があれば、ヨットとしてマイナスになると判断するなら、反対する場合もありますが、これは当然な事と思います。彼らは、良いヨットを建造したいと願っています。儲かるのが目的なら、たくさん建造して売る事だと言います。我々は本当に良いヨットを送り出したいんだと言います。

それで、カスタムは高価ではありますが、でも、プロダクション艇のトップレベルのヨットに比べたら、変わらないか、意外に、むしろ安いかもしれません。品質的には上だとは思います。それに、艤装にしても、最新の、しかも、本当にオーナーに寄り添ったアドバイスをもらいながら建造できます。ですから、オーナーも建造に参加し、それを楽しんでいけると思います。

このヨットはパフォーマンスクラシックというコンセプト、デザイナーはオランダのフック、造船所はトルコのメトゥアー、そして、このプロジェクト全体を束ねるのが英国のPCヨットで、日本側のお手伝いとして弊社が関わっています。実際にやっていくと解りますが、プロダクション艇では決して無い、様々なプロセスがあって、実に面白いと思います。

ところで、カスタムと言えば大型艇ばかりかと言うと、そうでも無く、33フィートのデイセーラーとかもあります。もちろん、スーパーヨットなんかもあります。但し、カスタムはプロダクションには無い、自分だけの究極の一艇を建造するわけですが、それだけに、時間を要します。ですから、その時間さえも楽しむという考え方は必要だろうと思います。

実は、私、生涯で2度目のカスタムオーダーを受けしました。今回が2度目ですが、1度目はまだメールが無い時代で、通信はもっぱらファックスでしたので、その際は思いませんでしたが、今から思えば非常に大変でした。今は、写真もすぐに送れますし、もらう事もできます。良い時代になったな〜と、つくづく思います。ですから、カスタムも随分やり易くなったというわけです。



写真は建造中のPC47ですが、縦横の補強材(カーボン)は当然船底にラミネート、家具は船内手作り、ソファーやテーブルの高さ、形状、材質だって、照明だって、オーーナー指定です。また、このヨットはフリーボードの高さもオリジナルから少し低くしました。艤装の仕方も変えてます。例えば、ブームファーラーを採用しているのですが、当初ではブームエンドからシートを取る予定でしたが、コクピットに大きなビミニを設置するという事で、ブーム中央からに変更してもらいました。それをどうやるかもいろいろありましたが、ブームそのものも中央から取るという事でブームを補強してもらいました。ジブハリヤードの取り方も変えてます。デッキアレンジメントも変えています。実は、シングルハンドを前提に艤装しています。

また、ハルとデッキの接合だって、ボルト/ナットは一切使わず、全て内外からラミネートして一体化させています。この様に、カスタムと言えど、ベースとなるデザインがあれば、かなりオーナーとしてもイメージし易くなります。ゼロから生み出すのは大変ですが、ベースがあると、かなりやり易くなると思います。

建造途中に、詳細が決まっていくに従って、マストの詳細図面が出来、キールもハルの重量配分を決めた後に、詳細図面が出来てきます。多くの図面を見る事になりますが、これが実に面白く、他ではできない経験だと思います。もし、生涯最後の究極の一艇をと考えるのであれば、カスタム艇の建造も候補に入れてみては如何でしょうか?


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