第八話 クルージング艇とは何か?


      

デイセーラーはセーリングを、言わばスポーツして楽しむ事。一方、クルージング艇もそれと同じスポーツをする事ができます。但し、旅を楽しむのが主体ですので、デイセーラーとは違って、居住性を高め、装備も増えますから、排水量は当然重くなります。そこがデイセーラーとは違う処になります。

そうなりますと、コンセプトの違いから、デッキ上の艤装の仕方も違ってきます。最近のクルージング艇も小さなジブと大きなメインという組み合わせが多くなりました。そうなりますと、セール操作はメインシートが主になります。何故なら、ジブよりメインの方が操作した時の影響が大きいからです。その場合、メインセールにはより大きな力がかかりますから、本来はブーム後方からメインシートをリードした方が良いかと思います。でも、実際は、ブーム中央あたりからリードしますので、操作にはウィンチ(キャビン入口横)を使う事になります。そうすると、ステアリングから遠くなりますので、シングルでしたら、一旦、舵から離れなければならなくなります。まして、とっさのブローには対応できません。従って、もう一人は欲しい。

最近ではセルフタッキングジブがクルージング艇にも採用されてきました。そのせいで、メインセールはさらに大きくなるわけですが、旅という事を考えた場合、タッキングなんて滅多にしないものです。それにセルフタッキングが必要だろうか? と思わないでも無いんですが、それは兎も角、旅はエンジン主体、それ以外は近場のピクニックと考えるならば、セルフタッキングもありなのかなとも思います。

クルージング艇では、帆走性能以上に、便利さと簡単さが重視されます。もちろん、それで良いと思いますが、もうひとつ、シングルハンドも考慮しておくと、自由度がぐんと上がると思います。ひとりでも。いつでも、思い立った時に旅だって、セーリングだって楽しめると、楽しみの幅が広がるのではないでしょうか?

そこで、ご紹介したいのが、写真のTES28です。最近では、このサイズのクルージング艇が殆ど建造されなくなってきましたが、このヨットはシングルをも考慮されたヨットではないかと思います。特に、造船所がそれを謳っているわけではありませんが。

このヨットの幅は2.99m、最近のクルージング艇より少し狭い。が故にボリュームの圧倒感も和らぎます。それでいて、キャビンは十分な広さを持ちます。特に、ステアリングがワイヤー形式が一般的ですが、このヨットは油圧式です。これは、設置スペースが小さくて済みます。という事は、アフトキャビンのバースは非常に広くとれています。クルージングコンセプトとしてはとっても有り難いと思います。

また、メインシートのリード位置、これがブームエンドから取られ、ステアリングのすぐ前です。つまり、舵操作をしながら同時にメインシート操作ができます。ブローに対する操作の時、舵を離れないで済みます。ジブシートはもちろん、コクピット左右のウィンチで、これにも手が届く。この二つのシートは頻繁に操作しますから、これが近い処にあるという事がポイントです。それに、メインシートはウィンチを使わないでも操作できるという処も、さっと操作できますから良いと思います。

こういう事はオートパイロットを使えばできる事はできます。しかし、旅以外の日常のセーリングの時、やっぱりちょっと操作してセーリングそのものを楽しめたら、やっぱりその方が楽しいと思います。クルージング艇と言えど、操作フィーリングとセールフィーリングを味わえます。それもシングルで。

日本向けとしては、ヤンマー3YM20のセールドライブを設置できます。マストはオンデッキですから、海水の侵入がありません。丁寧な造りで定評のあるヨットです。


開閉式のスウィミングステップ(ステップを閉じた場合、後部からの乗り込みステップがあります)

  ←ステップを閉じた時、後部側から乗り込む際のステ
    ップ、その他、プッシュピット固定のオーナーズ
    チェアー、トランサムに見えるクリートはテンダ
    ーを結ぶ為

  
   ↑一方バウ側は、ステップ付きバウスプリット、
     その横にアンカーローラー、そしてパルピット
     にもステップがあり、旅先で前側からの乗り降
     りの際に便利です。


  
ピデスタルには計器設置スペースが広くとって   カップホルダーが左右にあります
あります。GPSの設置もできます。       ステアリングの後ろは開閉式(左右はロッカー)

  
シート類のポケット              LED照明付きのエンジンルーム 
                       ハッチはダンパー付き(コクピットロッカーの
                       ハッチにもダンパーが付いてます)

その他、12VパネルにはUSBソケット、シガーライターソケット、電圧計等々があります。さて、お気付きでしょうか? クルージング艇にはキャビンの広さとかギャレーとかの設備とかもありますが、こういう小さな事ではありますが、実際の使用において、これらの小さな配慮がかなり便利であり、役立つと思います。つまり、そういう配慮をしている造船所のヨット、TES28は、サイズ的にも手頃ですし、丁寧な造りで、是非、お薦めしたいクルージング艇です。

さて、クルージング艇とは何か? 旅を楽しむのは当然ですが、日常の使用においてもセーリングを楽しんだり、メインテナンスしたり、キャビンで過ごしたり、コクピットで過ごしたり、いろんな使い方がなされると思います。つまり、クルージング艇とは、短期間であっても、ヨットでの生活を意味するのではないでしょうか。



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