第百話 一枚の写真


      

この一枚の写真から何を感じるかは、人それぞれですが、人は案外、見た目の形だけでは無く、無意識のうちに、見えない部分まで感じ取っているのでは無いでしょうか?この写真を見て、何てエレガントで綺麗なヨットだろうと感じました。すっ飛んで走る超高速艇には見えないが、そこそこ速いだろう。クオリティー的にも高そうだ。

興味の無い方はスルーされるだろうし、興味がわいたら、さらに知りたいと思います。ジブのファーリングはデッキ下にドラムが設置され、セルフタッキングジブだから、よりセール面積を稼ぐ事になる。舵はティラーだな。デザインはクラシッデザインにあるオーバーハングが殆ど無い。それにしても、全体からクラシックとは言わないものの、そういう雰囲気が漂っている。デッキ上のニス塗装された木部のせいだろうか?しかし、高級感あるな〜。モダンデザインではあるが、他とは違う印象を持ちました。

興味を持ったら、データを調べます。仕様書やオプション等、もちろん価格も調べます。それで、どういう内容なのか?業者の立場としては、上記以外に、できるだけ多くの写真とか、海外の雑誌の掲載記事とか、youtubeのビデオとか、できるだけ多くの情報を集めます。さらに、造船所の年間建造艇数なんかも問い合わせしたりします。これによって明らかになってきたデータは、だいたい最初の、たった一枚の写真から得た印象とそう遠くはありません。つまり、ちょっと極端な言い方かもしれませんが、人はたった一枚の写真からでも、多くの見えない部分まで感じ取っているという事です。

今時、どうにもならないヨットなんて無いと思います。インターネットを通じて、情報は簡単に手にできる時代、そんなボロヨットだったら、存続できるはずも無い。だから、みんな良いヨットです。但し、だからと言ってみんな同じというわけではありません。

何が違うって、見た目のデザイン以外は、造りの違いだと思います。つまりクオリティーの違いです。例えば、ハイテク素材というのがあって、確かにそのメリットはある。軽くて、強くてと言うのが相場です。また、FRP建造に使う樹脂もポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂とあって、確かに、良いものは良い。それらが重要である事に違いは無い。しかし、それ以上に大事な事は、どういう構造にして、それをどう施工していくかという事が重要なのでは無かろうか?

昔、船体にケブラー使用なんて謳っているヨットがありましたが、調べてみると、ほんの一部に使っていたに過ぎなかった。そのメリットはあったのかもしれませんが、たいそうに言う程でも無い。素材は重要には違いないが、それ以上に施工こそが、そのヨットの質感を高めるのではないかと思います。たった一枚の写真から得た質感は、この施工にあるのではないかと思います。

施工は、例えばビスで留める。ボルトナットで留める。パテで留める。グラス積層する。それをバキューム施工する。といろんな方法があります。構造においては厚みの違い、補強の構造の違い、全体を補強する構成の違い等々、さらに、それをどう施工するかと、素材以外にも多くの隠れた要素があります。その表面では見えない隠れた部分にこそ、そのヨットの質の決め手がある。

良い施工を施されたヨットは、そのヨットのコンセプトとして熟慮されて建造され、結局は、それが価格に反映され、質が高ければ高い程、手間がかかり、たくさんは造れないと思います。そして、そういうヨットは使っている素材にしても、その施工レベルに合致しています。価格が高いのにはその理由があります。

しかしながら、前述しました通り、各目指したコンセプトにおいて、みんな良いヨットなんだと思います。ただ、どこまで求めるか次第なんだと思います。そして、どこまで求めるかは、自分の感性が既に知っているのかもしれません。それは見た目だけでは無く、見えない質をも含めて感じ取っていますから、気に入る、気に入らない、特に確たる根拠は無くても、何となく感じる。そこは、客観的なデータと同じぐらい重視した方が良いのではないかと思います。

感覚的に気に入っても、データ的に満足できないとか、感覚的に気に入らなくても、データ的には満足できるとか、そういう事はそうは無いと思います。速いヨットは速そうに見える。レース主体にするのでなければ、コンセプトと感覚で選んでも間違わないのではないかと思います。


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