第八十七話 クラシック&パフォーマンス


      

恐らくアレリオンから始まったであろう、見た目はクラシックでもセーリング性能は高いという流れは、それ以降の多くのクラシックデザインに影響を及ぼしてきました。その事を考えると、今は無きCarl Schumaker(写真)というデザイナーの業績は素晴らしい。クラシックとモダンの見事な融合をもたらしました。

クラシックデザインは特に現代のモダンデザインよりもスリムで、前後にオーバーハングを持ち、フリーボードも低くデザインされます。それに後部側は絞り込まれます。モダンデザインとは正反対のデザインで、何も木材をデッキに使わずとも、その形状でもってクラシック感が伝わってきます。しかし、見えない水線以下はモダン系デザインのようにフラットにして、フィンキールを与えた。この事は今から思えば何て事は無いのですが、30年前は活気的だったのです。

パフォーマンスを言う時、それは確かに、それまでのクラシック艇の深い船底形状やロングキールより、よりフラットでフィンキールにした方がスピードは上がります。アレリオン以前は頑固にそれを踏襲し、一部、ロングキールがセミロングなんかになったりはしたものだが、今日では細長いキールにバルブを設置したモダン系そのもののデザイン迄登場しています。そして全くデザインに違和感を感じる事も無い。

本当にスピードを競うレーサーならば、上から下までモダン系デザインです。という事は、モダン系の方が速いと言えます。何故なら、幅広くフラットな船型は幅によるスタビリティーをもたらす為、バラストを軽くも出来る。前後にオーバーハングは無いので水線長が長くできる。その上、船体そのものを軽量化すれば、速いヨットを建造する事ができます。特にダウンウィンドにおいて、より早くプレーニングします。

当然ながら、クラシック系デザインでもレースを楽しむ人達も大勢いるものの、何もピュアなレーサーを目指しているわけではありません。ハイパフォーマンスはレーサーのそれでは無く、一般のクルージング艇より速いヨットであります。我々一般がセーリングを楽しむ為のパフォーマンスヨットです。もちろん、クルージングもできます。

一般的に、クラシックな外観は重さを感じさせるかもしれませんが、実際は最新工法を用い、素材も最新で軽量化も図られています。それにモダンな船底形状なので、速くなるのは当然です。それに現代のクラシックデザインは見た目にもスッキリしてきて、重さも感じなくなってきました。それはある意味、現代のクラシックデザインとも言えます。

比較の問題ではありますが、モダン系クルージング艇はキャビンが広く、大勢で旅をするのは良い。しかし、重くなりました。それに比べて、現代のクラシックヨットは軽くハイパフォーマンスです。その代わり、キャビンはモダンデザイン程広くは無い。もちろん、モダン系にもパフォーマンスヨットがあります。所謂、レーサークルーザーです。現代クラシックはパフォーマンスにおいて、これと良い勝負。

世界的にクラシックデザインを好む人達は多い。特に、ハイパフォーマンスになってからはよりファンは増加してきました。見た目の印象からは、柔らかさ、落ち着きを感じるし、何と言っても時代を超えています。その時代時々の流行に左右される事の無い存在感を発揮しています。欧米では古くなったヨットをレストアするケースは少なく無いですが、その多くはクラシック系である事から見ても、やはりクラシックデザインは時代を越えていますね。まるでクラシック音楽と同じです。現代ミュージンクが古くなると懐かしさで聴く様になりますが、クラシックにはそれが無い。現代に生きる。同じです。

かといって、モダン系デザインを否定するものではありません。あくまで個人の感覚的な好みの違いです。そして、このモダン系デザインにおいても、実に洗練されたデザインにおいては、やはり時代を凌ぐものがあります。デザインは性能を示す以外に、そのヨットの美しさでもあります。人の感覚は個人的なものですが、でも、各人共通な部分もあり、その中でも特に核たる共通部に及ぶと、それがクラシックだろうが、モダンだろうが、時代の流行などには左右されないのかもしれません。いわゆる、これが名艇と言われるものかもしれません。

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