第七十二話 新しいハルスピードの計算方法


      

このTALKの一番最初の頃に、ハルスピードについて書きました。もう20年以上前です。ヨットが走るスピードは、プレーニングしない限りにおいて、その水線長によって制限されるというもので、√水線長(フィート)X1.34というものです。

例えば、水線長が8.7m(28.54フィート)だとすると、√28.54 X 1.34=7.16、つまり、プレーニング前の最大スピードは7.16ノットという事です。もちろん、これは平均的数値であって、そのヨットの排水量によっても違ってくるものの、まあ、だいたいこれに近いとされていました。

ところが、その後、ヨットもいろいろ進化を遂げてきて、キャビン拡大で重くなったり、水線長はオーバーハングを設けなくなったので長くなったりと変化してきました。と言う事で、上記の計算式に排水量を含めた計算をします。とは言っても、これが結構複雑な計算なのですが、一応下記に記載します。上記ヨットの例でいきますと、排水量が5,100kg(11,243ポンド)です。因みに、これは現在市場にあるヨットです。
        
8.26/(排水量ポンド/2240/(0.01X水線長フィート)^3)^0.311
=ハルスピード率

上記ヨットで計算しますと、

8.26/(11,243/2240/(0.01X28.54)^3)^0.311
=8.26/5.32=1.55

この数値が1.34に代わる係数になり、

√28.54 X 1.55=8.28ノット(ハルスピード)

最初の計算式に、排水量を含めて計算すると、ハルスピードは8.28ノットです。つまり、このヨットはプレーニングしなくても8.28ノットまでは出るという事になります。排水量が昔よりも重くなりましたが、水線長が長くなったという影響は大きいんでしょうね。この水線長の割には軽いとみなされる。

ところが、問題はこの後、このハルスピードをエンジンで実現しようとすると、理論的には50HPのエンジンが必要だそうです。30フィートクラスに50HPのエンジンは見たことがありません。それで、6ノットを目指したとしたら、その時の馬力は12.9HPとなり、20HP程のエンジンを設置すれば、巡行でこの程度は走れそうです。トップ7ノットぐらい行けるかもしれません。但し、ギヤでのパワーロスや船型、汚れ、プロペラのマッチングとかありますので、これらも考慮しなければならないと思いますが、理論的にはこういう計算ができます。

それでもし30HPのエンジンを設置したとすると、トップスピードで7.5ノットです。10HP増やしてもスピードは0.5ノットしか上がっていない。つまり、スピードが上がれば上がるほどに、より大きな馬力が必要になるという事になります。

と言う事で、ギヤでのパワーロスは仕方ないにしても、無闇にエンジンパワーを上げるより先に船底の汚れやプロペラのマッチングを考えた方が良さそうですね。

次へ       目次へ