第五十九話 ルックス重視


      

20年ぐらい前ですが、あるデザイナーは、最初に水線長の長さを決めると言ってました。そこから上と下をどうするか?恐らく、水線長が帆走性能に関わるからでしょうが、現代の技術の進歩からすると、それも少し違ってきたかもしれません。

水線長が帆走性能に関わる事は今でも同じですが、素材や技術の進化で、昔より遥かに軽く、強くできる様になりました。ヨットがプレーニングしない限りは、この水線長にスピード制限を受けます。その理論的数値は水線長(フィート)をルートX1.34=スピード(ノット)です。但し、これは船体が軽ければ、もう少し速くなります。そして、これを超えるには、少しづつプレーニング状態に入る事になります。

プレーニングし易いヨットを造るには、軽い事、それと船底形状ができるだけフラットである事になりますが、軽いのは良いとしても、船底形状がフラットになればなる程、乗り心地としては悪くなる。波に叩きます。それで、エントリー部分にやや角度を持たせ、後部側にいく程フラットにしていくなんてやります。

現代の技術は非常に軽く建造する事を可能にしてきました。しかも強くもできる。この間乗ったヨットは水線長が31フィートでしたから、理論的には7.5ノット迄ですが、実際は8ノットに及ぶ事もありました。だからって、現代技術が水線長に縛られ無くなったわけではありませんが、でも、この事はデザインに大きく影響しているかと思います。

我々一般が求めるスピードはどうなのか?いち早くプレーニングして、ビュンビュン走るスピードを求めているのか?誰もが10ノット超えたいのか?そうでは無いと思います。それより軽風でもそこそこ走り、中風の走りを楽しみ、強風における安定性を確保したいというものでは無いでしょうか?

もし、そうなら、軽量化と船底形状のデザイン、それにセール面積で可能になってきた。あるデイセーラーの造船所は、風速15mを超えたらセール下ろしてエンジンで帰った方が良い。楽しく無くなるからと言ってました。その通りだと思います。

そこで重要になってくるのが、見た目のデザインです。車だって、現代の技術は高いですから、良いデザインができると売れると言われます。要は、カッコ良い、美しいなんてのが支持されるわけで、時速300km出せるから売れるのは一部の支持者でしょう。と言う事で、ヨットも同様、見た目の美しさが重要と考えます。

クラシックデザインはヨット界では広く支持されています。現代のそれは昔とは違って軽いし、見た目にも洗練され、ヘビーさはありません。操作性も容易にできています。クラシックデザインは前後にオーバーハングを設けて水線長が短くなっています。が、それがクラシックの特徴ですし、美しさです。幅は細目、フリーボードは低い。この事は技術的軽量化の上に、さらに軽量化にも繋がっています。

つまり、ジャンルを決めたら、そのジャンル内のいろんなヨットがありますが、データを比較したらいろいろと難しいのですが、まずは見た目で選んでも良いと思います。好きか嫌いかです。迷ったら、データを見ます。それで良いんじゃなかろうか?データを比べて楽しむのは別ですが。

見た目はルックスのみならざ、案外、性能をも含んでいますし、慣れたらクオリティーさえも含んでいる。見た目に速そうとか、重そうとか、何となく質も解ってくる。その上で好き嫌いという感情が湧いてくると思います。だから、見た目で選んで良いのではないかと思います。

モダンデザインのデイセーラーなんか、如何にも速そうですし、実際そうです。より軽く造られています。スポーティーさがルックスに出ています。それに比べたら、クラシックデザインは柔らかさと言いますか、落ち着いた感じですが、それでも、現代技術は我々がセーリングを楽しむに充分なポテンシャルです。

レースに勝ちたいという事では、データ重視ですが、趣味として楽しむにおいてはルックス重視で構わないと思います。むしろ、その方が高揚感が生まれます。そして、モダンデザインでもチークデッキにしているのが多いのですが、それは重量を増やす事にもなるんですが、でも、ルックスの柔らかさを演出しています。見た目は重要なんですね。そして、人は木が好きなんですね。

木材はメインテナンスが美しさに大きく影響します。数年しか経っていなくても、木部をほったらかしにすると、美しさは激減しますし、逆に、20年、30年経っても、木部が綺麗だと全体が美しい。でも、好きなヨット、趣味です、メインテナンスさえも楽しみながら、ヨットライフのひとつと考えると、ただ乗るだけより、ずっと楽しく、面白く感じる様になるのではないかと思います。


美しいヨットは、ゆっくり走っても絵になりますね。そこにあるだけでも絵になる。

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