第五十四話 軽量化


      


軽量化すれば少ないパワーで高性能を実現できる。と言う事であらゆる乗り物は軽量化に努めます。ヨットも例外では無く、ある面において軽量化はヨット発展の歴史そのものかもしれません。そのお陰で、今日のデイセーラーが誕生しました。小さなセールでも高いパフォーマンスを得る事ができます。

船体の軽量化はそのヨットのポテンシャルにおおいに影響しますので、各造船所も研究に余念がありません。サンドイッチ構造が出てきて軽量化に貢献しましたが、芯となるバルサや化学素材とグラスの接合力とか試行錯誤を繰り返してきました。剥離なんて事も昔はあった様です

樹脂のグラスに対する浸透作業は、職人の腕にかかり、腕が悪いと浸透が不足していたりする。そうすると強度が落ちる。或は、塗布する樹脂が多すぎて重くなったりもします。ところが、今日の最新工法は、バキュームにより、グラスに樹脂を隙間なく浸透させる事ができるばかりか、その浸透比率さえ制御できるようになった事は大いに軽量化と同時に船体強度にも貢献しています。

但し、その技術は高いレベルで適切に行われなければなりません。ヨットの船体は複雑ですから、ただのフラットな板ではありませんし、それに図体もでかい。エアーの吸引箇所から、そのパワー、そして樹脂を送り込むたくさんのパイプの配置等々、同じ工法でもここに差が出てきます。適切に行われる事で、軽く強い船体ができます。そのうえで、内部のストリンガーをどう造り、どう配置していくか?高い船体剛性も欠かせない。これはセールフィーリングにも大きく影響します。余談ですが、アレリオンは内部ストリンガーをカーボンで造るようになりました。もちろん、バキューム工法、見えない処にこそ、その真価があります。

何故、そんな事をするのか?スピードポテンシャルを上げるのに、セールを大きくすれば簡単な話ですが、もちろん、それも少しはやりますが、セール拡大よりも、排水量軽量化の方が大きく影響するからです。それにセールをでかくしては、操作面にも影響します。ですから、排水量の軽量化無くして、セーリング重視はあり得ない。と言ってもどの程度までやるかは造船所次第ですが。

船体を軽量化し、船体剛性を高め、そんなヨットを走らせたら、スピードの向上、セールフィーリングの向上等につながっていきます。気持ち良いです。滑らかに走ります。デイセーラーはスピード重視ですが、フィーリング重視でもあります。そこが他とは違う処、セーリングを探求し、フィーリングを愛でる。


写真はイーグル44デイセーラー、もちろん、シングルハンド仕様。上はクラシックデザインで、ジェントルマンの雰囲気を漂わせ、下はT型キールで、ちょっと、やんちゃな感じかな?面白そう。昔じゃ考えられなかったこのギャップ。イーグル44のキールです。標準キールは、もうちょっとおとなし目で浅くなります。

これが仕上がるとこんな感じになります。乗ってるオヤジも、ちょい悪そうなジェントルマン。もちろん、シングルです。何しろ、プッシュボタンセーリングなので。これぐらいのサイズになると、シングルでは電動が当たり前。大いに文明の利器を活用しつつ、自由自在に乗りこなす。



でかいデイセーラーは小さなデイセーラーよりスピードポテンシャルを上げるのに有利に働きます。余裕があるんですね。軽量化の余裕です。このサイズで排水量は5,075kgです。これって今時のクルージング艇のハル長で言うなら、30フィートクラスの重量なのです。そして、セール面積は今時のクルージング艇の36フィートクラスです。これが44フィートで可能としています。それでSADRは約25あるんです。軽量化の効果がいかに高いか、良く解ります。小さなセールでポテンシャルを高くできる。これが軽量化のポイントです。但し、強く造らねばなりませんから、そこも大きなポイントです。ワクワクさせてくれますね。

でも、軽量化と言ってもレーサーじゃ無いんですから、やはり情緒的に魅力が無いと意味がありません。だから敢えて、水線長を短くしてでも前後に長いオーバーハングを設けています。重くなるにしても、敢えてチークデッキにしています。スピードだけじゃ無いんです。全ては、最終的には感性だと思います。

次へ       目次へ