第四十話 デイセーラーの不思議


      

かつての常勝レーサーでも古くなると もはや勝てなくなる。そうなるとレーサーとしてはもはやお呼びで無い。クルージング艇ならメインテナンスさえちゃんとしていけば、ずっと長く使えますが、最近の快適キャビンを見ると、そっちの方が良さそうに見えてしまうし、見た目も違ってくる。ところが・・・

デイセーラーに関しては、30年前のデイセーラーが今でもお呼びなのです。スピードが基準になると新しいものに取って代わられる。しかし、セーリングというのは様々な要素でできています。スピードだけが全てではありません。仮に、速さだけ取りあげても、セーリングはいろんな速さでセーリングにアプローチできます。それがセーリングの懐の深さだろうと思います。

30年前のヨットより確実に、しかも相当速いデイセーラーが次々に生まれてきました。上の写真はブレンタの最新モデルB34ですが、これはレースも楽しめるがレーティングのマジックなんかにかかったりしていません。あくまでデイセーラーであり、ウィークエンダーなのです。

デイセーラーの不思議な処は30年前のデイセーラーが、マイナーチェンジはしながらも、今でも殆どそのままで建造し続けられ、しかも市場に受け入れられているという事実です。つまり、新しいモデルが次々に出ながらも、30年前のモデルでも人気を持続できている。それだけデイセーラーとしての完成度が高いと言えます。それをアレリオン28が証明しています。確かに、今時のヨット程速いわけではありません。でも、セーリングを楽しむに、誰もが必ずしも最新モデルの高速を求めるわけでは無いという事を証明しています。

セーリングにはいろいろあります。しかも、デイセーラー界では、新しいモデルが必ずしも高速を狙って出てくるというわけでは無く、デザイン性であったり、セーリングの質感であったり、より高い船体剛性であったりします。デイセーラーはセーリング重視ですが、高速狙いばかりではありません。

アレリオンが創ったシングハンドやセルフタッキングジブ、低いフリーボードにスリムな船体、見た目のデザインや性能はいろいろですが、コンセプトは今でも踏襲されており、これらが、セーリングを楽しむに適した仕様である事が解ります。その点で今でも変わり無いのです。だから30年前のモデルが現役で居られます。この現役はヨットの寿命を指すのでは無く、ヨット自体はもっともっと長く乗れますが、ここで言う寿命とはお呼びで無いと言われない事です。



上の写真は1989年に建造されたアレリオン28の第一号艇の今現在の姿です。全く見劣りしないと言いますか、今のモデルと変わりませんね。人が求めるのはセーリングそのものですから、それは30年前と今も変わらないのです。そしてそのデザインも完成度が高い事が分かります。特に、デイセーラーのクラシックデザインは洗練されています。

では、モダン系はどうなのか? ブレンタ氏の最初のデイセーラー、B38が出たのが、確か15年ぐらい前ですから、これも上の写真の最新モデルB34とあまり変わっていない。但し、バウスプリットが付いている処が今時ですね。使う素材がカーボンになったりしています。下の写真が15年前のB38です。今でも全く見劣りしないですよね。



つまり、デイセーラーは永遠なのです。セーリングというジャンルは幅が広く、いろんなアプローチの仕方があり、キャビンの呪縛に捕らわれる事無く、レーサーのレーティングにも捕らわれないで、デザイナーが理想的なデザインを施しています。ですから完成度が高いし、だからこそ、多くのデザイナーがデイセーラーをデザインしたがる理由がここにあります。

ある意味、デイセーラーはセーリングヨットとしての理想形に近いのでは無かろうか?もちろん、今後、素材や工法の進化も出てきますが、それでも、現存するデイセーラーはそのまま生き続けるだろうと思います。何故なら、セーリングに対するアプローチの仕方は、いろいろあってしかるべきと認知されているからです。今日手に入れたデイセーラーを30年後もそのまま楽しむことができる。デイセーラーは永遠なり。

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