第三十話 進化はそれぞれの役割を明確化してきた


      

約30年ぐらい前からでしょうか、沿岸クルージング艇はキャビンの充実に突き進んで行きます。それが進化の方向性だった。その結果、居住性は高まり、キャビンライフは充実していきます。加えて、スラスターや電動ウィンチなんかも充実していきます。それがクルージング艇の進化の方向性でした。

一方、レーサーは技術の発展によって、船体はより軽量化され、、セールも多くはよりハイテク高性能の黒いカーボンセールが採用され、より性能が上がっていきます。最近のレースを見ていると黒いセールばかりです。進化はその本来持つ特性のより追求をもって進んで行く。レースを楽しむ人達は、昔に比べれば少数化したかもしれませんが、でもより本気で取り組む人達で盛んに行われ続けています。

ここにおいて、クルージング艇とレーサー、それぞれの進化は必然的にセーリングの違いをより大きく広げていく事になります。そして、この同時期にデイセーラーが誕生した事には大きな意味があり、デイセーラーはクルージング艇とレーサーの間を埋めるものとしての役割を担う事になります。レースでも無い、旅でも無いというジャンルの創設です。

デイセーラーはピュアセーリングを楽しむものとして誕生するわけです。 昔からセーリングは奥が深いと言われ続けてきましたが、その役目をデイセーラーが担ったと言えると思います。その奥の深さをどう獲得するか?それはセーリングを様々な角度から繊細に味わう事ではないかと思います。それがレースと違うのは、レースは競争である事、それに勝つ事に重点が置かれ、デイセーリングではセールフィーリングに重点が置かれる事です。

舵は針路を変える為に使いますが、その他、針路を変えない様にする為にも使い、抵抗が増えたり減ったりして、舵からもいろんな変化を味わう事ができます。また、針路を変えるにしても、どのタイミングで、どの程度切れば良いのか、どういうタイミングで戻していくか、また、このタイミングはセールとの関係があるわけで、これらを繊細に感じ取る事は、ただ操作して走っているというだけでは無いわけです。ただ速く走る為でも無く、全体の調和を感じます。

セール調整にしても、シート操作だけでも走れるわけですが、そこをさらに突っ込んで考えてみますと、リーチの開き具合、ドラフトの深さや位置、トラベラーとバングとのコンビネーション等々、様々な様相があり、それらはみんなその時々の風に寄って違ってきます。

最も重要な事は、それら多くの様相をより繊細に感じ取る事であり、より感じ取れる様になる為に知識と腕を磨きます。これがセーリングの深さを味わう事ではないかと思います。レースに勝つ為に知識と技術を磨くのでは無く、より繊細によりグッドフィーリングを得る為です。ただ走れば良いってもんじゃ無く、ただ速ければ良いってもんでも無く、瞬間瞬間の変化をできるだけ繊細に感じ取る事だと思います。このセーリングはレースとは違いますし、当然ながらクルージングとも違います。

レーサー、クルージング艇、デイセーラーとそれぞれの目的が明確になりました。これは進化の現れです。それぞれの分野をより追及してきた結果です。そこであらためてデイセーラー本来の楽しみ方について考えたいと思います。旅もできます。レースもできます。しかし、本来の楽しみ方はピュアセーリングであり、セーリングそのものが持つ深さをより繊細に感じ、味わう事だと思います。

デイセーリングで最も必要な事は、できるけ多く感じ取れる感覚を養う事では無いでしょうか。ただ真っすぐ走るだけでも、ただ何ノット出たという表面的なセーリングと、微妙な動きの変化を感じられるようになる事とはセーリングそのものが全然違ってきます。その感性を育てる事がデイセーリングだと思います。ポイントは自然に感じられるようになるという事です。

自然に感じるというのはなかなか気持ちが良いものです。人に寄っては繊細な操作なんて面倒くさいと思われるかもしれませんが、その繊細な操作による繊細な変化が自然に感じ取れるとしたら、面倒くさいなんて思いません。それどころか、繊細な操作は滑らかさをもたらし、それを感じ、味わう事ができる。デイセーラーとはそういうヨットであり、デイセーリングを堪能するというのは、自分の中に、そういう感性を育てていくという遊び方なのではないかと思います。

ひょっとしたら、これはマニアックに聞こえるかもしれません。でも、レースはマニアックだし、クルージングだって本気でやる旅はマニアック、つまり、心から楽しんでいくと、それは傍から見るとマニアックに見えてしまう。それを傍から見ている人達は心から楽しんでいるわけでは無い。何故なら、本当に楽しんでいるとしたら、それを傍から見ると、それもマニアックに見えてしまうと思います。面白さはより突っ込んだ処にこそありますから。

レーサーはクルーを要します。でも、デイセーラーはシングルハンド仕様、セーリングを味わうにはシングルが最もやり易いと思います。もちろん、クルーが居ても良いんですが、同じ価値観を共有していた方が良いです。で無いと少なからず気を遣いますよね。でも、一旦、繊細な感覚セーリングを身に付けていきますと、クルーやゲストが居ても繊細に感じ取る事ができると思います。

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