第二十二話 ヨットに対する見方


      

アメリカのマリナデルレイというマリーナに初めて行った時は、その規模に圧倒されたものです。それともうひとつ驚いたのは、ある係留されたヨットの窓辺に植木鉢がいくつも飾ってあり、キャビンでは奥さんらしき人が編み物をしていた事です。このヨット、動く前提が無いんだなと思ったものです。

後で聞いてみると、多くの人達がヨットに住むか別荘的な使い方をしているとか。その当時、携帯電話が普及する前ですが、マリーナには電話線がひかれ、ケーブルテレビがひかれ、郵便配達もしてくれるとか。後、あるマリーナはヨットの保管場所というより、リゾート地としてのサービスを考えた方が良いとも言ってました。ヨットは、ボートもそうでしょうが、動かないでも楽しめる。そういう使い方もあるんだな〜。

桟橋を歩いていると、コクピットでオヤジが二人でビール片手に雑談中、その数時間後にまた通ると、まだ二人で会話が続いていた。みんなで宴会という風でも無く、いつもの風景という感じでした。二人のうちの一人は別のヨットのオーナーだった様です。彼らはそうやって日常を楽しんでいる。

さて、日本を見てみると、そういう使い方をしている人達は非常に少ない事に気付きます。なかには宴会して泊まる方々もおられますが極少数派でしょうし、しかも、毎週やるわけじゃない。アメリカでも日本と同じ様に動いていないヨットやボートは多い。しかし、平日でも、いつでも人だけは賑わっている。寂しい日本のマリーナとは違います。時に、マリーナのスタッフの方が多かったりして。

つまり、遊び方、楽しみ方が違うんだな。もちろん、レースやクルージングを楽しむ人達もいるが、大多数を占める最も一般的な遊び方が違っている。彼らにとって、ヨットは別荘であり、マリーナはリゾート地、走り回って楽しむというスタイルは必須では無いんだろう。仕事していない時間、ゆったりした時間、特別な場所であるマリーナ、これで良いんだろう。

しかし、日本人はこれと同じというわけには行きません。何しろ、文化、習慣、価値観、等々が違うんですから。バケーションの最中、ホテルのプールサイドでずっと読書し続けられるのは、休みが多いからだと思っていましたが、そういう要因もあるかもしれませんが、どうもそれだけでは無い様です。根本的な考え方、感じ方が違うんだろうと思います。だから、日本人が同じ様にやっても楽しめないんだろうと思います。ある男、早期退職して、バハマの浜辺で毎日寝そべって暮らすのが夢だとか。

日本人は行動する事によって意味を見つけ、価値を見い出すのではなかろうか?何もしないでは退屈でしょうがない。これを変える事なんてそうそう簡単な事じゃ無いし、変える必要も無い。日本人は日本人としてのスタイルで遊べば良いと思います。本来、日本人は輸入してきた物や文化を自分達流にアレンジして自分のものにする事には長けているはずなのですが。

日本人が行動を重視するというのが正しい見方であるなら、そういうスタイルを持った方が良いという事になります。既にレースや旅を楽しむ人達はそうしていますが、それがメジャーにはなりにくい。欧米でもそうだが、もっと身近で、気軽にできてという事で欧米では別荘的になるのだが、日本人なら近場を活かした方が良いのではなかろうか?行動を伴う事で、身近で、気軽である事です。

まず思い浮かぶのがピクニック。これは誰でも楽しめる。但し、天候が良くて、家族や友人達と一緒なら。こういう条件がしょっちゅう揃うなんて事はあまり無いし、仮にあったとしても、しょっちゅうでは楽しさも薄れていくだろう。だから、ピクニックはたま〜にぐらいが丁度良い。では、他に何を軸として楽しめば良いのだろうか?

そこで、最も提案したいのがセーリングです。予想通りでしょ。このセーリングがピクニックと違うのは、セーリングに対する姿勢です。おしゃべりや飲み食いが中心となるピクニックとは違い、セーリングの軸はセーリングそのものを味わう処にあります。頭も心もセーリングと共にあれば、全く違う世界になってしまいます。

これがマンネリ化しないのは、自分自身が進化していくからです。セーリングにより精通していく事になり、より多くを感じ、より多くに気づく事になります。自分が進化すれば、それは自分のセーリングとして現れます。その面白さが進化していきますから、同じセーリングがずっと続くわけではありません。しかも、ひとりでもできる。否、ひとりならもっと集中出来たりもします。セーリングの面白さが解れば、ちょっと空いた時間にでもさっと味わってくる事ができます。しかも、終わりが無い。自由自在にヨットを操る感覚が自分のものにできる。こうなると、ヨットはレジャーと言うより趣味でありますね。

シングルセーリングを軸に、時に家族や友人を乗せ、時に好きな人はレースに参加したり、近場の旅を楽しんだり。こういうスタイルが多くの日本人のスタイルとして広がっても不思議じゃ無いと思うのです。これはクルージング艇でもできるし、もちろんデイセーラーは得意です。もちろん、宴会だって、泊まったりもできます。ヨットに対する見方をちょっと変えれば、もっと楽しめる方法があると思います。

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