第二十話 セーリングの質


      

本当に滑らかなセーリングを味わうと、実に気持ちが良い。そんな時、セーリングはスピードだけが全てでは無いと思わせてくれる。もちろん、ある程度のスピードは必要だろうが、必ずしも高速である必要は無い。それがセーリングの質、しかし、この滑らかさは一体どこから来るのだろうか?

あるヨット、上架した時、バウ側のエントリー部の船底塗装に楕円形の線が見えた。何だろうかと船底塗料を剥がしても船体自体にはに何も無かった。これは後で気が付く事になるのですが、波に叩かれて一瞬、その部位がへこみ、すぐに戻るという事を繰り返していた。その為、船底塗装にその部位の線が現れていたという事が解りました。また、あるヨットはキャビンの両サイドの窓にクラック、船体が捻じれたのです。その他、バックステーを大きく引いた時船体が縦に曲がったりもする。

この様に、船体は強大な波や風のパワーに、一瞬、船底がへこんだり、船体が捻じれたりします。それが何と無く感覚として感じられるのです。ところが、船体強度が高いヨットは、そういうストレスに対する抵抗力が強い。この事がセーリングに滑らかさを感じさせてくれるのだと思います。

だからどうしたと言われればそれまでですが、別に多少捻じれたからと言って乗れなくなるわけじゃ無い。しかしながら、この滑らかさという感覚は、前話のセーリングを味わうという点においてはとっても重要視したい感覚です。ただ真っすぐ走るという時にでさえ、感じが違ってきます。まあ、例えば、食事で言えば美味なのであります。そういう滑らかさでセーリングをあるがままに味わってみたい。ただそれだけですが。

セーリングはフィーリングこそ大事にしたい。スピードも、安定性も、操作性も、滑らかさも、そしてもちろん見た目の美しいデザインもフィーリングです。上手くなるのもフィーリングの為、別に誰よりも速く走る事を目標にしたわけじゃない。滑らかな操作をして、気持ち良いセーリングを味わいたいだけです。それだけなんですが、そのグッドフィーリングが何とも良い気持ちにさせてくれます。

船体剛性を高めつつ排水量の軽量化を図ります。船内のストリンガーの作り方や設置方法、工法はもちろんですが、元々スリムな船体ですから構造的に強度は高い。そのうえで様々な補強がなされます。さらに、船底エントリー部はやや角度を持たせエントリーをやわらげます。強度的にも強くなる。この事はスピードを若干犠牲にする要因でもありますが、乗り心地は良い。そして後部に向かってフラットにしていきます。ここはスピードです。速いヨットは面白い、でも速すぎる必要は無い。レーサーでは無いんですから。あくまでフィーリングの為のスピードです。

ある人はデイセーラーをピクニックボートだと言った。私はフィーリングボートだと言います。ピクニックだけなら、あそこまでやる必要は無いからです。セーリングに対して様々な工夫を詰め込んだデイセーラー、それがフィーリングの為というんですから、これ以上の贅沢があるだろうか?でも、感覚というのは最も重要だと考えます。

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