第八十六話 もっと旅寄り


      

セーリングとクルージングの各要素は相反する性質を持ちますので、クルージング艇の中でも、どっち寄りなのかという事でセールプラン、艤装の仕方、船体等々に違いが出てきます。

写真はコンパック27というクルージング艇、トップリグで135%ジェノアが標準、コンビネーションとしては大きなジェノアに小さなメイン、と言う事はジェノアを主として操作する。それで、メインは小さくなるので、メインシートはブーム中央からリードしキャビン入口横のウィンチへ、それでコクピットには何も無い。と言いますか、寛ぎの場所。長い旅の想定です。

これに対して前話のTES28は小さなジブに大きなメインというセールプランでした。それでメインシートはブーム後方から取り、舵のすぐ前でコントロールするという艤装です。これで舵とシートのコンビネーションを楽しめる。

また、ジェノアはメイン程には操作の範囲が広くはない。メインセールにはアウトホール、バング、バックステーアジャスター等によって細かい操作ができますが、ジェノアはシートの出し入れやリードブロックの操作程度です。と言う事はセール面積の大きい方が影響力は大きいわけですから、メインが小さければいろいろコントロールできるとしても影響力は小さくなると考えられます。

旅としてのセーリングならそれで良いし、ましてエンジンを使う事も多いし、もし両方の機帆走をすれば燃費も良くなります。回航屋さんなんかはジブだけ出してなんか良くやるし、強風時にもジブを少し出して安定を図ったりします。旅を中心にヨットライフをプランするなら、こういうのが良いと思います。

解り易く分類するなら、セーリング中心ならデイセーラー、旅とセーリングの半々ならTES28、旅中心ならコンパック27、これは各ヨットの性能はもちろんですが、セールプランや艤装の仕方をも考慮しての分類です。クルージング艇でのセーリングも、やっぱり各艇によって帆走性能だけでは無く、操作の具合やその楽しみ方が違ってくると思います。

クルージング艇だからってセーリングをないがしろにしているわけではありません。ただ考え方の違いによってセールプランが作られ、艤装の仕方も違ってきて当然です。微軽風には重さを感じるでしょう。でも、吹けば気持ち良く快走を味わえる。それに長い旅にも身体がより疲れないように波叩きも柔らかい。

どっち寄りのクルージング艇にしろ、旅をしてキャビンで夜を過ごして旅そのものを満喫する事ができるように想定されています。それが良く見るとセーリング寄りだったり、旅寄りだったりという違いが見える。大きく違うわけではありません。でも、その少しの違いが楽しみ方を変えるという事もある。クルージング艇と言ってもいろいろです。



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