第六十五話 アレリオンの功績


      


今日のデイセーラーの原点はアレリオン28です。デビューから早30年、今でも全く見劣りする事がありません。デザイン的にもパフォーマンスとしてもです。こんなヨットはそう多くは無い。多分、これから先の30年も変わらないのでは無かろうか?それがトラディショナル、もう殿堂入りと言っても良いと思います。と言ってもまだ現役ですが。

アレリオンの功績は従来からあったデイセーラーという、キャビンが無いか或いは小さいが故の呼称から、ハイパフォーマスセーリングを楽しむヨットという新しいコンセプトへと発展させた処にあります。そのコンセプトはシングルハンドを容易にし、操作がし易く、高いスタビリティーでしかも速い。従来のクルージング艇でも無く、レーサーでも無い。純粋にセーリングを味わう事が主目的です。もっと自由自在にセーリングを楽しみたかったのです。

   左の写真はアレリオン28の第一号艇です。進水は1989年
   翌年のセーリングワールド誌の取材記事です。そして、下の
   写真が、今現在のその第一号艇の姿です。
   

現行モデルと殆ど変わりません。もちろんメインテナンスも良く施されてきていますが、このヨットが今でも見劣りしないのは、恐らくこの秀逸のデザインによる処が大きいと思います。

このアレリオンが市場に広がるにつれ、徐々に他の造船所からもいろんなデイセーラーが建造される様になりました。アメリカではトラディショナルデザイン、ヨーロッパではモダン系もあれば、トラディショナル系、その両方の融合したタイプも出てきました。もちろん、サイズもいろいろで、今日では60フィートのデイセーラーというのもあります。このTALKの中でもいろんなデイセーラーをご紹介してきました。

デイセーラーという言葉の響きは一般的には日帰りの湾内セーリングというイメージをお持ちかもしれない。ピクニックヨット程度にしか思っていない人も居るでしょう。しかし、アレリオン以降のデイセーラーは全く異なります。確かにキャビンは同サイズのクルージング艇より狭いですが、目指したのはハイパフォーマンスであり、当然ながら水線以下はモダンデザインという、クラシックなテイストとモダンな走りという新旧の融合をもたらしました。また、バキューム工法により、船体はより強度を増しつつ軽量化され、次元の異なるセーリングを目指しました。これが30年前に行われたわけです。

しかし、このコンセプトが本当に理解されるには少し時間もかかります。1990年当時、キャンピングクルーザーと言う人も居た様です。しかし、徐々に市場はこのコンセプトを受け入れて行きます。それが世界に浸透していきますと当然ながら、そこからまた分化していきます。今日では例えば、モダンデザインでさらなる軽量化を図り、セーリングパフォーマンスをさらに高めて行ったデイセーラー群はレース志向も強くなってきました。しかし、それでも、レース以外ではデイセーリングを楽しんでいます。むしろ、その方が使用割合は多いそうです。

何が違うって、パフォーマスは当然ですが、滑らかなセーリング感やコクピットが海面に近い事がセールフィーリングを高めます。現代のデイセーラーは小さいからと言うのでは無くある特定のコンセプトを示します。何度も言いますが、ハイパフォーマスとシングルハンドによる自由自在感です。それが広がりますと35フィート、40フィート、45フィート、そして60フィートというのが出てきて、もちろんこれはパワーアシストのお陰で可能になったと言えます。さらに、70フィートというのがこれから出てきます。しかし、ひとつ言える事はサイズが大きくなってもコンセプトは変わらないという事です。セーリングを楽しむ事が主であり、サイズを大きくして旅を目指そうとしたわけではありません。もちろんどのデイセーラーだって旅はできます。

是非、デイセーラーのパフォーマンスをひとりでも多くの方々に味わって頂きたいと思います。旅かセーリングか、どちらを優先するかは個人の嗜好ですが、セーリングというのはレースするだけがセーリングでは無いし、移動目的だけがセーリングでは無い。セーリングそのものに深い味わいがあると思います。それを現実として表に出してくれたのがアレリオンです。残念ながらと言いますか、当然と言いますか、一般の沿岸クルージング艇に比べて高価です。それは軽量化と同時に高い船体剛性を持たせた船体の造りにあります。でも、このセーリングにおける滑らかさを感じたら、きっと納得して頂けるのではないかと思います。

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