第六十一話 普通では無い選択


      

世の中には一般的なモデルでは満足できない人達が居ます。彼らは変わり者かと言うとそうではありません。自分の使い方、嗜好等を良く理解して、他人の価値観では無く、自分の価値観に素直に従う方々です。ヨット文化が定着してくと、その中から様々な価値観が表面化し、それに伴ってヨットも細分化、専門化してきます。欧米では、それら個性豊かなヨットもたくさんあります。

一般的な装備や効率ばかりを考えたら、こういう選択は難しいかもしれない。でも、何だか粋な感じがしませんか?こんなヨットに乗ってみたいと思いませんか? こんなヨットを選択するオーナーの心の余裕が伺えます。彼らは、あるコンセプトに特化したり、またある技術に特化したり、デザインに特化したり、何らかの魅力をヨットから感じ取ります。

彼らは便利さや快適キャビン空間を求めているわけでは無い。それらは自宅に既にあるから。そうでは無くて、自宅には無いもの、陸上のどこを探しても無いもの、求める内容はそれぞれ違っても、そこには自分が求めた夢の空間がある。

現実という陸上から離れて海へ出ると、そこはもう夢の世界。浮かんで走る。風で走る。傾いたり、揺れたり、もはや現実とは思えない。心からその世界に浸れるなら、それだけでも楽しめる。そんな夢の世界には、美しいヨットを美しくメインテナンスして、美しく走らせるだけで良い。彼らの感性は、あらゆる面において美しさを求める処にあるのかもしれない。美しさとは見た目のデザインだけでは無く、動きも含めたあらゆる面に広がります。



上はオリジナルアレリオンのレプリカ、わざわざオリジナルを選択するのは何故か?セーリングは風で走るものだが、ただ動けば良いってもんじゃない。彼らの夢の世界を創造するのがヨットなのだから、何でも良いわけじゃ無い。そして、強風も微風も波も快走も、また漂うのでさえ、みんなひと時の夢。



いつか、こんなヨットも日本で走って欲しい。金太郎飴みたいに、みんな同じじゃ面白く無い。しかし、それは言う程簡単な事では無く、歴史の長さ、個人の経験の深さによって徐々に創られるものだと思います。もし、最後のヨットをと思う時、どんなヨットにしたいですか?もはや見栄も無く、心から湧き出て来る欲求はどんなものでしょう?これまでの経験から、あれもこれもというより、自分の最も求めるものが解って来ると、それ以外の要素はできるだけ絞って、求めるものを最高に楽しみたくなる。それが最後のヨットに相応しい。ですから、最もプライベートな事なのだろうと思います。

下の写真の様なサイズでさえ、平気で走らせる人達だって居る。今日のデイセーラーがそれを可能にしています。彼らが求めるのはあらゆる面での美しさです。美しいヨットを、美しくメインテナンスして、美しく走らせる。それが彼らの究極の夢の世界の創造の仕方なのでしょう。彼らの選択は普通じゃ無い。だけど、彼らは突き抜けてカッコ良い、何等かに特化した彼らの潔さにカッコ良さを感じます。


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