第八十五話 パフォーマンスクルーザーは二刀流


      

昔、ヨットの旅というものは、長い長い距離と時間がかかるものという認識が普通だったろうと思います。そんな旅には燃料を食わないセーリングが必須だったに違いありません。旅は今よりずっと冒険性が高く、ロマンがあり、技術も知識も、今よりもっと多くを要求されたのだろうと思います。

しかしながら、現代に至っては、そんな長い旅の時間を取れる人達がどれだけ居るだろう? やがて旅の距離は短くなり、沿岸になり、セールに代わってエンジン走行になっていく。それは仕方ない流れなのかもしれません。さらに、ナビゲーションはGPSによって格段に容易になり、舵はオーパイを使い、舵にへばりつく必要も無くなりました。そんな効率性、合理性は、反面、冒険性もロマンも薄れてきた様にも思えます。しかし、その代わり、旅を計算できるようになりました。

失ったものの代わりに得たものは高い効率です。旅のプロセスが効率良くなってきた。効率を意識すると、旅のプロセスを楽しむ事が薄くなるのではないかと思います。それで、意識はますます目的地に向かいます。早く着かないかな〜。それがもっと進むと、ヨットよりボートの方が手っ取り早くて良いじゃん、てな具合になりますね。合理的に考えれば正しいと思います。旅はプロセスと目的地で成り立っていると思います。そのうちのひとつを無くすとは言いませんが、効率化するのは、現代の考え方として正しいと思います。

だからこそ、旅以外の普段はセーリングを本気で走らせた方が良いんです。旅はエンジンで良い。でも、それだけじゃあ面白く無いんです。セーリングを本気でやりますと、セーリングそのものが解ってきます。それは頭脳で解る理屈だけじゃ無くて、感覚で解るセーリングもあります。それが予想外の面白さをもたらす。それを目の前の海域で、デイセーリングでできます。これは頭脳と感性の冒険、ロマンです。ちょっと大袈裟ですが。でも、本気度次第です。

それで、本気セーリングと旅を両立できるヨットとしてパフォーマンスクルーザーというのがあり、またの名をレーサークルーザーとも言いますが、レース主体では無く、速いクルーザーです。普段はデイセーリングを本気で楽しんで、そして気軽にエンジンで旅に行きます。そう割切ったらどうでしょう?

と言う事で、アルコナ380です。高いパフォーマンスと、クルージングに対しては外洋レベルの品質を持ちます。と言う事は、沿岸クルージングだとしても、時化た時にはこのヨットが味方になって支えてくれます。外洋に行くにしたって、足が速ければより行動範囲が広く取れます。ロングにはやっぱりセーリングが必須になりますから重要です。

その仕様ですが、排水量は6,850kg、セール面積は47.5u(メイン)+38.93u(107%ジブ)、それでSADRは24.6です。シングルで乗るならセルフタッキングジブにしても良い。それでもSADRは22〜23はキープするでしょう。この数値は結構高い、スイスイ感があると思います。普通の沿岸クルージング艇なら、2,000kg以上排水量は重くなり、SADR20以下でしょう。でも、普通のクルージング艇はそれで良いんです。ですが、セーリング重視ならより速い方が面白い。プラス、セールフィーリングの質が高ければもっと良い。それがアルコナです。何故なら、船体剛性が高いからです。

シングルでも可能ですが、特にシングルハンド仕様を謳っているわけではありません。でも、二人なら楽勝です。下の内装の写真を見ても、このヨットの質が解ると思います。テーブルが写っていませんが、もちろんしっかりしたのがあります。スウェーデンクオリティーは流石です。奇抜さは無く、落ち着いた、しっかりした造りです。



ただ、こういうクオリティーのヨットには小さなサイズが無くなりました。もはや小さなヨットで外洋に行く人は少なくなったせいなのかもしれません。(アルコナは34フィートから)。全体的にサイズが大きくなってきています。

それで、最近では、そのでかいヨットでも気軽さを獲得する為に、スラスターを設置する事が珍しく無くなりました。昔は、そんなのありませんでしたが、時代の流れ、クルーも居なかったり、そういう時代ですから。それで、次回はスラスターについて。

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