第三十七話 グッドセーリング、グッドフィーリング


      
アレリオン33

米国のヨット専門雑誌は、デイセーラーを評し、セーリングに対する、新しいアプローチスタイルの誕生だと評価しました。既存のスタイルでは、セーリングを手段として、レーサーはレースを楽しみ、クルージング艇は旅を楽しむ。しかし、デイセーラーはセーリングそのものに着目した処が違っていました。

デイセーラーがセーリングそのものを目的にした事は、価値観の転換を意味します。例えば、レースだったら、勝つ為のスピードですが、デイセーラーだったら、味わう為のスピードという事になります。つまり、スピード感が重要になります。そのスピード感は、人に寄って求めるスピード感が違います。いずれにしろ、ある一定以上のスピードは求めますが、ある方は超高速、また、ある方はそこそこでも良い。という楽しみの感覚の違いがあり、だから、デイセーラーには、様々なスピードが用意されています。レーサーなら、ワンデザイン以外はこうはなりません。遅いのは駄目なんです。だから、デイセーラーは様々なスピードポテンシャルのヨットが、同時に存在できるわけです。

また、セーリングには、スピード以外にたくさんの要素があります。セーリングに滑らかさを感じた事あります?これなんかは、実に質の良さを感じさせてくれます。波当たりの衝撃、安定感、レスポンス、バランス、細かく言えば、たくさんの動きがあり、そのひとつひとつに何かを感じます。それだけではありません。操作するひとつひとつにも、操作感というものがあります。

つまり、デイセーラーが着目したのは、フィーリングです。操作するフィーリングから、それに寄って変化したフィーリング、言葉では言い表せないあらゆるフィーリングに、グッドを目指す。シングルハンド仕様を設定したのも、その為です。何故なら、独りの方が、セーリングに集中し易いからです。独りなら、ゲストに気を遣う事もありません。これで、誰でも、いつでも、気軽にヨットを出して、セーリングを味わう事ができます。こういうセーリングには、2〜3時間が適当かと思います。長時間になりますと、気持ちを維持しずらくなりますから。だから、旅としてのセーリングとは違うわけです。旅のセーリングに、そこまで求める事は無いと思います。

但し、これと引き換えにした要素もあります。それがキャビンです。天井は低く、入れば座るのが基本です。装備にしても、必要最低限、クルージング艇の様に、長期間の連泊は想定していません。これらの要素は、セーリングに対立するものですから、どっちを取るかという事になり、クルージング艇か、デイセーラーか、それは各人の感性にお任せですが、動かないクルージング艇を見る度に、セーリングをと言いたくなります。

さて、それは兎も角、デイセーラーには、もうひとつプラス要素があります。我々はいつも出れば本気のセーリングをするわけではありません。その日の気分もありますし、友人や家族を誘ってのピクニックセーリングもあります。また、デートセーリングもあるかもしれない。そういう時でも、デイセーラーというのは、グッドフィーリングのセーリングをみんなで味わえるという事です。時には、ゆったりセーリングも良いもんです。海の風情を楽しみます。

ところで、この様な全く新しいコンセプトは、最初から、容易く理解され、受け入れられたわけではありませんでした。しかし、合理的な考え方をする欧米人には、そんなに時間はかかりませんでした。徐々に広がり、今日ではアメリカのみならず、ヨーロッパ全土に広がりました。ただ、残念ながら、日本ではまだ20艇ぐらいでしょうか。日本では、まだ割り切れないという方が多いのは事実です。しかし、日本も、これから、セーリングそのものを愛でるというスタイル、グッドフィーリングのセーリングが広がって行くと思います。希望と期待を込めて。兎に角、一旦、デイセーラーの味を覚えたら、一生物になり、他のコンセプトに行く事はまず無いと思いますね。だから、買い替える人は非常に少ない。なかなか中古が出ません。これは欧米でも同じで、中古が非常に少ないです。

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