第82話 クラシックVS.モダン

クラシックカーと言いますと、もう殆ど残ってはいない。一部のマニアの世界にあるだけ
でしょう。でも、クラシック音楽やヨットは今でも多くの支持を受けています。多くの造船
所がいまだにクラシックデザインを好んで建造しています。何故か?それは音楽にして
もヨットにしても、クラシックはノスタルジーに浸るものでは無く、実用的に高い評価を受
けているからではないでしょうか。

ヨットは外洋性がある。これが当たり前でした。最近では、外洋に出る人は少ない。それ
より沿岸を快適に走れる方に変わってきました。クラシックなデザインの特徴は前後にオ
ーバーハングがあり、細身で、フリーボードが低く、バラスト比は高い。排水量も重めです。
レースの世界が進化するにつれ、影響はクルージングヨットにも及びます。水線長をできる
だけ長く取るとスピードが増しますので、ハングオーバーが減少していき、今では全く無く
なった。幅も広がり、船底形状はフラットに変化し、浮力を受けやすくなり、重量も軽くなっ
たおかげでプレーニングしやすいヨットになった。これらは全てスピードを追求しています。
レーシングヨットですから当たり前なのですが、これらのいくつかの要素がクルージング艇
にも採用されました。ハングオーバーが減少して、水線長を長く取るとか、幅が広くなるとか
はキャビンのスペースを広げる事になります。これがクルージング派には都合が良い物とし
て容易に想像できます。狭いより広い方が良い。でも、相変わらずクラシックデザインのヨット
がたくさん建造されています。

ハングオーバーが無いというのは、水線長を長くはしますが、波がデッキに上がってくる。幅
が広く、船底がフラットなのはプレーニングし易いが、波に船底が叩かれます。レーサーにと
っては乗り心地は二の次、速い事が全てです。でも、クルージング艇にはスピードだけを追及
する事はできません。乗り心地は重要なのです。こういうメリットがクラシックデザインには残
されています。乗って、有益であるから残っている。感傷に浸る為ではありません。
クラシックデザインと言っても、進化しています。素材や工法は最新ですし、リグなども最新の
デザイン、クラシックなデザインを損なう事無く最新のデザインを採用しています。船底形状も
変化しています。ロングキールだった物がフィンキールに変わっている。つまり、クラシックデザ
インの良さをキープしながら、最新テクノロジーによるモダンという要素がブレンドされているの
です。新旧の融合ですね。

クルージング目的にはクラシックデザインの方が優れていると言っても言いでしょう。ただ、ク
ルージングと言っても、バリエーションがある。どのように乗るかによって異なります。キャビン
はモダンデザインの方が広い、スピードも速い。どちらにもメリット、デメリットがある。それで、
オーナーがどんな選択基準を持っているかによって、選択しなければなりません。

ただひとつ大きな問題があります。クラシックデザインのヨットは造りに手がこんでいます。それ
で大量生産向きでは無い。よって高価になってしまいますたくさんの木を使い、頑丈なヨットが
造られます。高いのは当然かなとも思います。でも、波がある時に乗ると解りますが、何とも
あたりが柔らかい。重心も低いので、乗っていて安心なのです。それに、最近のクラシックデザ
インは決して昔のように遅いわけではありません。最新のリグは帆走性能を高めてきました。

モダンデザインは広いキャビンに洗練された雰囲気を演出しています。木はできるだけ外装に
は使わなくなりました。メインテナンスが容易になります。コストダウンも図ってきた。一部には
ちょっと帆走という事をないがしろにしているヨットもありますが、近場の大勢でのクルージング
には都合が良い。

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