第72話 メインテナンスは当たり前

新艇を購入する。そして10年以内ぐらいで買い換える。その間、殆どメインテナンスは
されていない。せいぜい故障個所が出たら修理する程度。シートもハリヤードもそのま
ま。当然セールもそのまま。船底のバルブは固着して開閉できない。トイレも若干水
漏れしている。エンジンはたまに来てかけていたというが、油まみれで汚い。ソファー
をはぐってみると、長年使われなく放置されていた物がたくさん出てくる。最近では
そろそろ30年物というヨットも出てきた。状態はひどい。壊れたコンパス、作動しない
ビルジポンプ、まあ、こんな状態で乗っていたものだと思われるヨットもある。いや、放置
されていたのかもしれない。とにかく、壊れるまでは何もしない。たまにしか来ないから
壊れた事さえ気がつかない事もある。

こういうヨットに乗ってきた人は、これを修復しようとは考えない。それで買い換えを考える
そして、次の艇も同じ運命をたどる事になる。そんなヨットが実に多い。海外のマリーナを
見て回ると、全てでは無いだろうが、皆良く手入れされている事に驚かされます。30年
だろうが、40年だろうが、非常にきれいなヨットが多い。マリン事情が違うという事もある
だろうが、とにかく、日本ではメインテナンスに関心を寄せない。お金をかけない。お金を
かけるのは新しい物を設置する事にある。ファーラーシステムを導入するとか、エアコンを
設置するとか、そういう事である。ある物のコンディションを良くしていこうという気風が
非常に少ない事に驚かされてしまう。

アメリカで聞いた話。ヨットを購入する時、艇価を検討するのは誰でもする事。異なるのは
その後のメインテナンス費用をも予算に入れているという事です。大きなヨットはオーナー
が自ら手入れをするには、ちょっと難しい。だから、このサイズなら業者に任せる。となる
と、そういう費用を考えておかなければならない。でも、ある程度小さくなると、これぐらい
なら、オーナーが自分でメインテナンスできる。そういう事を含めて購入するそうである。
だから、桟橋で良くオーナーが自分でニスを塗ったりしている光景に出くわす。確かに、
欧米ではメインテナンスが行き届いているヨットは売価に反映してくる。しかしながら、自分
のヨット、命をも守るヨット、やはりメインテナンスを充分尽くしてやりたいものです。

日本では小型と言えども、殆ど自分でメインテナンスをしようという方は少ない。それなら、
業者に任せるべきです。新艇を購入する時は大枚をはたき、必要であるかどうかも解らない
ものまでフルオプションでつける傾向にあります。世界一周でもするようなヨットがあり、それ
でいて数年後は乗らなくなる。ならば、オプションを減らして、メインテナンスに費やした方が
絶対良い。いつも最高のコンディションを保つ事が大切です。安全でもあり、何と言っても、
いつも美しいヨットに乗れます。

メインテナンスは日頃の心がけが大事です。エンジンだけではありません。よけいなゴミを
放置せずに、ソファーの下もエンジンルームもきれいに保つ。船底のバルブも開閉をスムース
にするように時々動かしたり、とにかく、ついている装備全てをきちんときれいに、錆びなど
しないようにするべきです。シートもハリヤードも交換しましょう。セールもリカットできないぐらい
伸びたら、交換するべきです。これらを自分でできないなら、業者にやってもらうべきです。そう
していけば、30年経っても、驚くほどきれいに保てるのです。

ヨットの操船はみんな覚えます。でも、メインテナンスについてはあまり覚え様としません。これ
もヨットライフのひとつなのです。30年たった、メインテナンスされていないヨットは、これから
どうなるのでしょうか。本来なら、ここでレストアして、さらに10年、20年と乗る事ができます。
でも、一方で、30年経ったヨットにお金をかけてどうするという考え方もある。これが日本にお
けるヨットの寿命かもしれません。ヨットそのものの寿命では無く、気持ちの寿命です。船体は
しっかりしているのに、あまりにも汚いなりに、誰も手を出さなくなる。これでいいんでしょうか?

ヨットを購入される方、是非、ヨット船体だけでは無く、その後、どうやってメインテナンスをして
いくかを考えておいてください。自分でする方はおおいに結構です。でも、自分でできない方は
業者をフルに使って、いつもグッドコンディションを保つ。それには費用がかかる。これも考慮
しておかなければならない事です。あるアメリカ人、大型ヨットを購入の検討をしていた。彼曰く
船がこれだけ、それから船価の何パーセントだったかは忘れましたが、5%ぐらいだったでしょう
か、メインテナンスに毎年かかる費用として計算していました。日本のマリーナ保管料の高さ
も影響しているとは思いますが、それも含めて考えなければなりません。

費用をかけたく無い方、勉強して下さい。操船と同じように学んで下さい。数年後にはたいてい
の事がわかるようになります。ニスの塗り方、簡単な電気、エンジン、その気になれば誰でも
できる事です。でも、これが大型艇になると、なかなか手に負えなくなるんですね。だから、大型
艇の方は自分でしないのですから、ほったらかしにしないで、業者にお金を払ってください。

ヨットが汚れて、シート類は汚いし、エンジンも油まみれ、ソファーのカバーは破れ、ソファーの
下はゴミだらけ。これでは乗る気しないでしょう。古くても美しいなら、気持ちの良いものです。
今年の夏はとても暑かった。それで、エアコン積んだり、ビミニトップを設置したり。こういう事には
お金を使います。でも、今ある物を先にベストコンディションにしておくべきではないでしょうか?

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