第69話 昨今のヨット事情

不況という名の元に、ヨット業界は低迷、新艇の進水は非常に少ない。マリーナは空き
バースが増え、中古市場は新艇が進水しないいじょう、中古艇も市場に出る数が少ない。
これが誰でも想像できる昨今のヨット事情かと思います。

しかし、これは日本のヨット事情における転機だと思っています。マリーナが空いてきたお
かげで、昔のように保管場所には困らない。空いてきたおかげで、係留料が安くなってきた
マリーナもある。こういうプラスもあるのです。それに、ヨットというものを見なおす絶好の機会
でもあると思うのです。乗らないヨット、年に数回しか使わない高価なヨット、こういうものを見
なおして、もう一度、ヨットの見方を考えなければなりません。飾るだけではもったいない。
どうやったら、ヨット本来のエキサイティングなフィーリングを得る事ができるか、どんな乗り方
なら自分に合うか、かつて追い求めてきた快適さは、時代とともに本当に快適になってきた。
ところが、その快適なはずのヨットに何故乗らないか?欧米とのライフスタイルの相違、自分
流とはどんな物か?

欧米が先進国であるヨットに対して、同じように求めてきた。ところが、何かが違う事は明白
です。使われないヨットが多い状況で、これが正常とは思えないし、今後の発展さえも、この
不況さえ乗り越えれば解決するという問題でも無いと思うのです。追い求めた方向が少し
我々日本人には合わなかった。この事に気づく、良い機会だと思います。

人は自分が想像できる世界で生きています。想像できる範囲がその人の世界です。想像でき
ない事はできないのです。ヨットを思い浮かべて、想像する事は快適なセーリング、ロングクル
ージング、いつか遠くへというのがだいたいの相場です。どこかでアンカー打って、のんびり、
釣り、こういう想像もある。しかしながら、こういう想像が日常に変化をどれだけもたらすか?
ロングに行きたいと思いながら、その一方で未知への不安もある。そうやって、人は安心できる
所に安住していく。安住すると退屈になるのです。

そこで、退屈な世界から抜けたいと思い、遠くへ行くことを想像します。しかし、大きな不安と戦う
前に、目の前の場所で、頻繁にセーリングをする事が第一歩だと思います。そこには変化もあれ
ば、小さな不安もある。この小さな不安を取り除いて行く。これが大きな不安を克服する第一歩
だと思います。未来に遠くを目指すなら、今,近場を頻繁に乗る事です。今乗らない人が未来に
遠くへ行く事はありません。

エキサイティングな世界を求めてヨットを始める。でもしている事はエキサイティングでは無く、
安住の世界。人は安心を求めますが、それが実現すると退屈になるという矛盾を持っています。
それが明確に今のヨット事情に出ている。いきなり大きな冒険は必要ありません。でも、自分の
ちょっと上を行くチャレンジを常に持っていないと、途端に退屈さが出てくる。快適なはずの我が家
にじっとしていて面白いでしょうか?人は常に何かを求めています。でも、求めながら、安心したい
と思っている。安心も不安もある。この両方を受け入れる事で、全てはエキサイティングになる。
安心と不安、緊張と緩和、両方があり、この両方を受け入れる事で本当の楽しさが出てくる。そう
思うのです。それで、最も簡単な、誰でもできる事というのはセーリング。といういつも同じ結論に
達します。セーリングそのものこそが、安心も不安も、緊張も緩和も、快適も不快も、全てを提供
してくれる。この中の不安と緊張と不快だけを取り除くと、後は退屈さしか残らない。

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