第33話 最も大切な事

これまでたくさんの事を書いてきました。ヨットはあれが良い、これが良い、自然だ、風だ
セーリングがどうのこうの、スタビリティーがどうの、でも最も大切な事はそんなところには
無い。自然がどう、ヨットがどう、そんな事に講釈をたれる前に、もっと大切な事があります。

ヨットを現在所有している人達、何故ヨットを買ったのでしょう。世の中はひとりひとりが心の
中に持っている世界が全てです。自分の世界です。自分が描いた理想的なヨットライフとは
違ったかもしれない。心に描いた理想はあくまで希望です。問題は現実をどう解釈したかで
す。どんな事情があれ、それに対してどんな感じを持ったかで全てが決まる。

週末しか乗れない、天気が悪い、倶楽部ハウスが充実していない、ヨットが小さい、クルー
が居ない、暇が無い、マリーナが遠い、暑い、寒い、いかなる理由でも、本当はそれが理由
で乗れないのではありません。その事情に対してどんな気持ちを持ったかが本当の理由で
はないでしょうか。全てが全部揃うなんて事は無い。必ず何らかの事情がある。その事情の
中で、それでは乗れないと思うか、ではどうしたら乗れるようになるか、楽しめるようになるか
と考える。これが大切だと思うのです。

ヨットを係留しっぱなしで、ただ持っているというだけの人がいかに多いか。みんな自分以外
にその理由を見つけ、それを言い訳にして仕方無いと自分を納得させる。本当の原因はその
理由にあるのでは無く、それを理由にした自分にある。いつまでも理想を求めて、一体いつに
なったら乗れるようになるのだろうか。永久に持ってるだけで終わってしまうかもしれません。

暑くてエアコンが無いと乗れないと思うなら、エアコンをつければ良い。ヨットが小さくてエアコン
が付かないなら、大きいのにしたら良い。大きいヨットを買う予算が無いなら、我慢するしかない
我慢ができないなら、やめれば良い。単なる一例ですが、全ては同じ。そのプロセスのどこかで
停止してしまい、そのままずっと続いている。持っているだけになっている。できない理由を探して
も何の解決にもならず、それなら今できる事をして、今楽しむのが良かろうと思います。

クルーがいないならシングルハンドで、予算が少ないなら小さいので、暇があまり無いならデイ
セーリングで、臨機応変に対応して、今を楽しくするのが良い。いかに高級艇を持とうが、でかい
ヨットを持とうが、乗らずに持っているだけでは何をも経験できない。それよりディンギーに乗ってる
子供の方がよっぽど楽しそうじゃありませんか。人生は経験です。良い事があったり、悪い事が
あったり、感動したり、悲しんだり、そういう事があってはじめて充実する。じっとしていては何の
感動も沸いてこない。持ってるだけでは充実感はわいてこない。死んだらヨットは置いていかなけ
ればなりません。人間には時間の限りがある。永久に生きていくわけにはいきません。生きている
間に、どんな経験をして、どんな気持ちを持つかが全てではないでしょうか。どれだけ出ていけるか
で、どれだけ経験できるかになる。その経験があってこそ感動を呼ぶ。

ヨットが重要なのではありません。いかなるヨットだろうと、オーナーの気持ちが最も大切です。体験
しようという気持ちがあって、今できる事をしようとする。その解決の方法を手伝うのが我々業者で
しょう。でかいヨットがどうした、高級艇?マリーナに電気が無い?それがどうした。そんな事で、
ぐだぐだ言うより、それじゃどうしようか、できる範囲で楽しむ方法を考える。そうすると、それなりの
体験ができる。生きていることは体験することではないでしょうか。そして、感動することではない
でしょうか。持ってるだけでは体験できないし、感動も充実感も沸いてこない。死ぬ時後悔しますよ。

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