第六十四話 私をヨットに連れてって


      

また乗せてくださいねと帰り際に彼女達は言った。しかし、その後二度と来ることは無かった。そんな事あるでしょう? ヨットって一体どこが面白いのと聞いてきた。ただ乗って、お弁当食べて世間話ばかり。それじゃ面白く無いのは彼女達ばかりじゃない。

気が付いてみるとマリーナにはおっさんばかり。今更、ヨットは男の世界なんて言う人も居ないだろう。人口の半分は女性なんですがね〜、なのにヨットには女性がやけに少ない。セーリング女子を期待したいが、なかなかそうも行か無い様です。それで、現オーナーの方々には、積極的に女性をヨットに誘って頂きたいのです。

ところが、オーナーは気遣ってのんびり、ゆったり、でも、それがいけないんじゃなかろうか? それじゃあ世間話するしか他に無い。だからつまらない。少なくとも二回目は無い。

あるオーナー曰く、穏やかに走った時より、ある程度ちゃんとセーリングした時の方がリピーターの確率が高いと言われた。また載せてと誰もが言うが、それは社交辞令だった。しかし、セーリグの醍醐味を垣間見た彼女達はそうでは無かった。

ワーキャー言いながら実は楽しんでる。それが非日常の面白さです。舵を握れば誰でも船長気分、ちょっと緊張感もあるが、日常にこんな事は無い。それにオーナーも一緒だから安心感もある。それが根底にあるからワーとかキャーとか楽しめる。ジェットコースターとかも同じです。お弁当とおしゃべりだけでは無く、一緒にヨットを走らせる。

何故ヨットに来ないか?面白く無いからです。オーナーも滅多に来ないヨットにゲストが来て面白いはずが無い。海やヨットはエキゾチックなフィーリング、でも、それだけじゃあ持って30分。コクピットで世間話をしてもつまらない。フル装備の広いキャビンにスゴーイとか言いながら、そこにずっと居たいわけじゃない。セーリングという非日常を楽しめるのがヨットです。多少飛沫を浴びたって良い。それもセーリングという味わいの一部。飛沫が飛んで来たら、よけずに大笑いしてやりましょう。そうしたら、ゲストはそういうもんだと思う。

おしゃべりはアフターセーリングに。セーリングの後の集いには話題も違ってくる。まあ、熱いフレッシュなコーヒーぐらいは欲しいかな。そして、広いキャビンより、こういう時はコクピットで頂いた方が楽しい。デイセーラーのメインサロンはコクピットです。それでも来なかったら? そんな彼女達はヨット向きじゃないとほっときます。

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