第五十一話 デイセーラーというデザイン


      

何故、レーサーでも無いのにセーリング重視のヨットを造ったのか?もちろんクルージング艇でも無い新しいコンセプトです。セーリングって、風だけで走りエンジン音もしない、しかも、外から見るより遥かにスピード感があります。それを自由自在に走らせる事ができたらどうでしょう?セーリングってそれだけでもっと面白くなるんじゃないでしょうか。

今日のデイセーラーコンセプトが生まれたのは約30年近く前になります。これはある個人がデザイナーと相談しながらオーダーして造らせたヨットが、その後プロダクション化していく事になります。全てはこの時のオーナーの考え方を基にしてデザイナーが具体化していきます。欧米では結構こういうパターンで新しいコンセプトが誕生する事があります。

もっと気軽に、シングルでも操船がし易くて、それでも高い帆走性能を持つ美しいヨットが欲しい。その結果が今日の低いフリーボード、細目の幅、低重心、セルフタッキングジブ、シングルハンド仕様、さらにこの時はオーナーの希望でクラシック系デザイン、但し、帆走性能を考えて水線以下やリグはモダンデザインという新旧の融合を生み出しました。この後、他のデイセーラーもたくさん生まれて行きますが、全てこの時のデザインコンセプトを踏襲しています。

人は何度も使ううちに充実させていきたい部分とそうでも無い部分を明確にしていきます。つまり、使えば使うほどにどこかに集約されていく。あれもこれもという考え方にはなっていかない。何故なら、自分にとっての面白さが明確に解ってくるからです。ある人はレース性能だろうし、またある人はクルージングの快適性かもしれない。

純粋にセーリングを楽しみたい。それが今日のデイセーラーです。初心者にも簡単に操船ができて、尚且つ、ベテランの高いレベルのセーリングにも対応できるヨット。それがデイセーラーのセーリング重視という意味です。スピードももちろんですが、ただ速さだけを追うのでは無く、総合的なセーリングの質を味わうヨットだと思います。

このヨットが生まれた背景には、ヨット文化の深さがあったと思います。そうでも無いと、こういう新しいコンセプトはなかなか生まれ無いと思いますね。よくぞ、こういうヨットを造ってくれたと感謝したいぐらいです。

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