第八話 されど深さを知る



      
井の中の蛙、大海を知らず、と言う諺がありますが、その続きもいろいろあって、されど空の青さを知るとか、されど井戸の深さを知るとかあります。いずれにしろ同じ意味だと思いますが、狭い範囲であっても、否、狭い範囲だからこそ、深く知る事ができる。どっちが良いかという問題では無いと思います。

デイセーラーにピッタリの言葉です。何週間も何ヶ月も旅をしていたら、セーリングの微妙さなんて気にしていられなくなります。でも、2〜3時間の短い時間なら、集中してセーリングを感じる事ができます。だからこそ、その深さを知る事ができます。

レースの方はセーリングにも詳しいし、他艇との競争ですから戦術とかにも長けている。セーリングには競争はありません。でも、セーリングに詳しくなって、競争が無いからこそ、その時々のセーリングに浸って、より味わう事ができます。レースでは浸ってる場合じゃありませんから。それがレースとセーリングの違いだと思います。

セーリングすれば誰でも感覚が鋭敏になります。それからさらに詳しくなってより良いフィーリングを目指します。スピードもフィーリングのひとつ、ヒールして安定感を感じます、舵を切ってその動きを感じます。あらゆる動作にあらゆる感覚があり、それをより深く感じる事ができます。

全てのヨットの目的は味わいにある。レースでは勝利の味わい、抜きつ抜かれつのスリルの味わい等々、旅なら、いろんな箇所を訪れて、いろんな触れ合いの味わい、そしてセーリングはセーリングそのものの深さに対する味わいだと思います。時に、セーリングではたいしたスピードで無くても、グッドフィーリングになる事もあります。人間の感性は実にバラエティーに富んでます。真剣に走らせた後、ふっと息を抜いた時、実に良い気分になれる。緊張がふっと抜けた瞬間ですね。そして、後で、その時のセーリングが蘇ってきます。思い当たるふしがあるんじゃないでしょうか。

深さを知るとは、鋭敏になって、セーリングの繊細さが解るようになる。つまり、深さが解る自分になるという事ではないでしょうか?もちろん、知識も技術も同時進行です。さらに、他のヨットに乗った時その違いが良く解るようにもなります。セーリングが自分のものになります。

        

次へ       目次へ