第八十七話 感覚


      
我々が楽しいとか、面白いとか感じるのは、その時の状況に寄るわけですが、でも、よくよく考えて見ますと、その状況というのもありますが、それを感じる感性に寄ると言う部分もあります。様々な状況に遭遇し、どんな感覚を得られるか次第で、我々の感じる処は随分違ってくるのではないでしょうか?

つまり、我々は自分の感性を楽しんでいるのではないかと思います。という事は、同じ状況に対してより多くを敏感に感じて、より多くの情報を得る事ができた方が、感覚はより刺激を受けて楽しむ事ができるのではなかろうか?

この人間の感覚というのは、鍛えれば鍛える程鋭く、繊細になれる。職人さんなんかそうですね。もう20年以上前になりますが、かなりご年配の船大工さんに仕事を依頼した時、端で見ていた私にはかなり適当に計測していた様に思えたのですが、完成してみると寸分の狂いも無く、ピッタリおさまったという事がありました。すごいもんです。また、ある方、チェロという楽器をを習ってあるんですが、この楽器は、ギターで言う処のフレットというものが無く、フレットはドレミとかの印の様なもので、チェロにはそれが全く無い。ほんのわずかでも抑える位置がずれると音程が狂ってしまいます。ところが、この方、最初は音程がかなり不安定なんですが、徐々にずれが小さくなっていきました。精度がどんどん上がってきた。やっぱり人間てのはすごいもんです。

これと同じ様に、セーリングに繊細さを求め、より感じる事が多くなれるようにする事が、より多くの情報を得て、その同じ状況であっても、より面白さを得る事ができるようになれる。同じヨットに乗っても、感じる処はそれぞれ違います。それで、どうするかと言うと、集中力を発揮して、セーリングをする事だと思います。そして繰り返していますと、精度が上がり、それがやがて自然になってしまいます。

これがもし無いとすると、ある程度以上の風があれば楽しめるけど、それ以下なら退屈になり、ある程度以下の強風なら楽しめるが、それ以上では恐怖でしか無くなります。より多くを感じ取る事は、より多くの情報を得る事ですから、感じて面白さを得られるし、多くの情報を得て対応する事ができるという事になり、つまり、全体的により幅広いセーリングに出来るという事になると思います。ですから、感性を鍛えた方が良いと思う次第です。すると、ヨットの違いも良く感じられるようになりますね。結局、面白いって、良く解るという事ではないかと思います。

        

次へ       目次へ