第二十八話 性能と工夫




       ヨットを手に入れたら、漏れなく、そのヨットの性能が付いてくる。そのヨットがどんな性能を持っているか
      微風の時、中風の時、強風の時、どんな走りを見せてくれるか? その性能は、自分の知識と意図を通じる
      事によって味わえるのではないかと思います。 一見、面倒くさそうで、案外、やり始めたら面白くなるんじゃ
      ないかと思います。
      
      昔々、教えてもらった事ですが、ブローが入ると、ヨットはヒールが大きくなって、上ろうとするので、舵操作で
      それを抑えていたのですが、ある方から教えてもらって、前方を見て、海面のざわつきが見えたら、そこに
      ブローがあるので、ブローに入ると同時に、シートを出してパワーを逃がして、抜けたらまた締める。そうした
      ら、同じヒールアングルのままスムースに抜ける事ができると言われ、それが解ると、ちょっと面白くなって、
      ブローばかり探してたりした事があります。舵で抑えるのはブレーキを踏んでるのと同じ事。

      ちょっとした知識が面白さを生み出します。こんな小さな事かもしれませんが、そんな小さな知識を少しづつ
      増やしていく事によって、セーリング全体が違ってくる。さらに、知識が増えると応用力もついてくる。それが
      さらに、セーリングを面白くしてくれる。

      面白いセーリングは、そのセーリングが解る事、その上でのフィーリングになると、気持ち良さが増幅されて
      いくと思います。何も解らずの結果と、少しでも解るとのとでは全然気持ちが違うと思います。解ればこそ、
      その先の発展もあるし、応用も効かせられると思います。

      あるお婆さん、と言っても、昔はディンギーの選手だったとか。タックが実に滑らかでした。舵切って、ジブ
      シートのウィンチをちょいと扱うだけで完了。ウィンチを何回転も回さない。舵操作とセールの入れ替えの
      タイミングがぴったり合ってる。上手くなったら、操作も楽になれる。

      上りのギリギリまで上っていくと、ジブのリボンが横に流れ、やがて斜め上に流れていく。それ以上、ちょっと
      でも上らせたら、裏風が入りだして失速する。そのギリギリの舵操作。緊張感もあって、実に面白い。

      そうこうしていると、大きく分けて、セーリングは二種類しかない事が解る。目標点が直接狙えない風域にあ
      って、角度を稼ぎながらジグザグにアプローチするか、或いは、目標点が直接、真っ直ぐ、ダイレクトに狙え
      るか、この二つのセーリングしかない。今どっちのセーリングなのかを意識すると、走らせ方も解りやすく
      なってきた。

      角度稼ぎなら、風向が変われば舵で追随し、いつタックしたら良いのかのタイミングを考える。目標点の直接
      狙いなら、舵はひたすら目標点をめざし、変わる風向や風速にはセール操作で対応する事になる。
      少しづつ、少しづつ解れば、そこからまた考えて先に進む事ができる。セーリングの面白さは、こういう処に
      あるんじゃないかと思います。
  
      微軽風の時、強風の時、ただ、風に翻弄されるだけで無く、ちょっとした知識ででも、対応力がついてきたら、
      その風をより楽しむ事ができるようになれる。偶然じゃ無くて、ちゃんとした理屈に裏付けされたセーリングが
      できる。キャビンの広さより、温水より、冷蔵庫より、ずっと面白いと思うのですが? だから、セーリングを
      お勧めしています。セーリングはフィーリングだと思いますが、それを支えるのは理屈、小さな理解の積み重
      ねとやがて来る応用力ではないかと思います。
       
       という事で、そういうセーリングを最も堪能できるのが、今日のデイセーラーと思っています。もちろん、時には
      何にも考えずに、セ―リングする事もある。それもたまには良いが、それだけというのはちょっと。




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