第四十話 キャビンの意味

今日の沿岸用クルージング艇は、そのキャビンが巨大になってきました。20年前のヨットでも、別に天井に頭がつかえていたわけではありません。でも、その後、縦も横も広がってきました。そんな巨大なキャビンに居ますと、それがヨットである事を忘れてしまいそうです。

では、何故そんなに巨大にしたのか? 居住性が高いという事は、そこに長時間居られるという事になります。キャビンに長時間居る時というのはどんな時? クルージングに行って、ヨットに泊まる。そこで食事作って、寝泊りします。それが何泊にもなればなる程、広いのは重宝します。

それから、時に、大勢で宴会したりもします。でも、クルージングの旅や宴会等、そうしょっちゅうは無い。そうしますと、最も使えるのは、このヨットを別荘にしてしまう事。毎週末には、マリーナにやってきて、家族で別荘を楽しむ。欧米での使い方で多いのはこれではないかと思います。だから、広ければ広い方が良いし、あるヨーロッパの雑誌は、これをアパートの様だと形容していました。その部屋には、エアコンは必需品です。冷蔵庫、温水、トイレ、シャワー、テレビ、オーディオ、家にあるものは全部必要です。だから、快適な別荘ライフが楽しめます。

一方、デイセーラーは狭いキャビンしか無い。そんな物はあまり必要とは考えていない。何故なら、セーリング主体だから。 キャビンは立ってうろうろするような天井の高さも無い。基本的には、入ったら座るのです。まあ、うろうろする様な広さもありませんが。キャビンに寝泊りする事はできる。しかし、何泊もすると窮屈さを感じる人も居るかもしれません。さすがにでかいデイセーラーになると、何とか天井の高さも確保できてくる。でも、やっぱりクルージング艇程ひろくは無い。

デイセーラーにとっては、キャビンは重要では無く、必要最低限でシンプルで良い。むしろ、その方が、重量的にも軽減できるし、重心も下げられるので、セーリングにはその方が都合が良い。キャビンに長時間居る事は無いし、敢えて言えば、コクピットこそがメインサロンという考え方。また、キャビンが小さい事で、ボリュームが小さくなって、シングルハンドには非常に気持ち的にも気軽に動かす事ができる。だから、デイセーラーとクルージング艇では、キャビンに対する考え方が全く違います。使い方が違うので当然ではありますが。

キャビンは欲しい。でも、どう使うか? それによってはセーリングも違ってきます。セーリングをどう考えるかとも言えます。あんな大きなキャビンが本当に必要だろうか? その大きさ故に、気軽さを失ったりしていないだろうか? 気軽だったら、もっとセーリングを遊べやしないか? 人はそれぞれの価値観があり、使い方がありますが、もう一度考えてみる価値はあろうかと思います。何故なら、動かないヨットが多いから。

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